日経平均株価の上昇を阻む「本当の敵」とは何か? 欧米のインフレ懸念は続くがそれだけではない

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そんな中で先週の10日に発表されたアメリカ5月のCPI(消費者物価指数)は衝撃的な数字だった。前年同月比では+8.6%(前月比+1.0%)と、予想の+8.2%や4月の+8.3%をも大きく上回り、8.9%だった1981年12月以来の伸びとなっていたからだ。

変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は+6.0%と、4月の6.2%を下回った。だが、予想の+5.9%を上回り、インフレの根強さを示す結果だった。

ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は、「高水準のインフレ率が示される」との見方を示していたものの、市場は「直接の金融当局者ではない報道官の発言」として無視していたようだ。結局、10日の同国株式市場はNYダウが前日比880.00ドル(2.73%)安、ナスダック総合指数も同414.21ポイント(3.52%)安と大幅続落。S&P500種指数も同じく2.91%安となった。

そもそも先週は「厳しい週だった」かもしれない

ただ、10日のCPIの結果が大きく報じられているが、もともと先週は「厳しい週」だったのかもしれない。7日には世界銀行が最新の世界経済見通しを公表、2022年の世界実質GDP成長率予測を1月時点の4.1%から2.9%に下方修正した。

世銀は「ロシアによるウクライナ侵攻が、新型コロナウイルスの感染拡大よる打撃に追い打ちをかけ、多くの国が不況に直面する可能性がある」と警告し、「低成長とインフレの高止まりが長期間続く局面に入る可能性がある」とした。デイビット・マルパス総裁は「現時点では、スタグフレーション(景気後退下でのインフレ)に陥る危険性はかなり高い」と記している。

翌8日にはOECD(経済協力開発機構)も最新の経済見通しを発表。2022年の世界経済成長率を昨年12月時点の4.5%から3%に大幅下方修正した。やはり、理由はウクライナ戦争の影響だ。2023年の経済成長率については2.8%へとさらに減速する見通しを示した。こちらも前回予測の3.2%から引き下げられている。

マティアス・コーマン事務総長は会見で「インフレ率は高止まりするだろう」と述べ、OECD加盟国の従来のインフレ率予想(2022年5%でピーク、2023年は3%)を、「2022年8.5%でピーク、2023年には6.0%に低下」に修正した。ただ、このような成長率の低下とインフレ率の上昇という見通しにもかかわらず、OECDは「スタグフレーションのリスクは限定的」と述べた。

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