豊田章男氏が体を張って水素カーを運転する真意 トヨタの「脱炭素戦略」を読み解く

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章男氏が、水素に「本気」で取り組むのは、持続可能な社会を作るためである。

トヨタは、富士山の麓の静岡県裾野市に実証都市「ウーブン・シティ」を建設中だ。ここで、水素の製造から輸送、利用までの実証実験を進める。

トヨタは、ウーブン・シティに水素を動力源とするエコシステムを構築する計画だ。パートナーは、エネルギー大手ENEOSである。ENEOSは、ウーブン・シティ近郊に水素ステーションを建設し、2024~2025年のウーブン・シティ開所前に運用を開始する予定だ。水電解装置を使って、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を製造し、ウーブン・シティに供給する。

ウーブン・シティの内部には、トヨタが開発した定置型FC(燃料電池)発電機を設置する。このほか、商用トラックを中心とした水素需要の検証と需要管理システムの構築も行う。乗用車と違って、稼働状況が一定の商用車は水素の消費量がほぼ一定のため、需要規模やコストを算出しやすいためである。

急がれる水素の燃料活用

水素は、にわかに脚光を浴びている。ロシアのウクライナ侵攻で、液化天然ガス(LNG)や石炭など化石燃料の安定供給に不安が広がっているためだ。各国は、水素の燃料活用に向けた取り組みを急ぐ。

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ただ、日本は世界的に見ても、早い時期から水素エネルギーに着目してきた。政府は2014年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」をとりまとめ、2017年には「水素基本戦略」を決定し、水素社会への足がかりを作ってきた。

実際、トヨタのFCVや定置用燃料電池システム(エネファーム)など関連技術で世界をリードしている。関連の特許出願数も世界一だ。

しかしながら、例のごとく、日本は、世界の先頭を走りながら、その利活用は遅々として進んでいない。章男氏の進める水素エンジンの開発は、水素普及に向けた重要な一歩である。

「自動車メーカーをペースメーカーにしていただきたい」と、章男氏は語っている。水素社会の実現のため、必要な技術開発などで先導的な役割を果たす覚悟を示しているのだ。

そこには、脱炭素社会への自動車業界全体を見据えた戦略がある。

片山 修 経済ジャーナリスト

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かたやま おさむ / Osamu Katayama

愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人材論には定評がある。

『豊田章男』『技術屋の王国――ホンダの不思議力』『山崎正和の遺言』(すべて東洋経済新報社)、『時代は踊った――オンリー・イエスタディ ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)など、著書は60冊を超える。

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