ついに東急電鉄も「ホームドア」本格設置へ 消える「多扉車」、ラッシュ緩和の役目終える

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特に守口市までは普通と同様、各駅に停車。守口市~京橋間はノンストップという「区間急行」で遅延が常態化していた。

そこで各駅での乗降時間を短縮する方策が考えられ、従来、京阪の電車は乗降扉が片側3ヵ所が基本であったのを、5ヵ所に増やした5000系を新製。これを、遅れやすい区間急行に投入したのである。

その後、ダイヤは何度も変更されたが、利用者が集中する、朝の要注意列車に充当され続けている。

京阪がラッシュ輸送に投入した5扉車5000系(撮影:伊原薫)

なお5000系は、他の多扉車とは異なり、日中は5ヵ所中2ヵ所の扉を閉め切り、天井に収納していた座席をそこへ降ろして座席定員を増やすという、独特の機構も持っている。  

扉の数を増やす理由は、「混雑時に所定の停車時間内にスムーズに乗降を終わらせ、ダイヤを乱さないようにすること」に尽きる。線路設備上、運転可能な限り多くの列車が設定されているラッシュアワーに、もし遅延が発生すると影響は広範囲に及び、とたんに輸送力が落ちる。多扉車は、毎日の通勤通学輸送の完遂のために投入される"切り札"なのだ。

利用客がピークアウト、徐々に「異端扱い」へ

その後、約20年間、多扉車といえば京阪名物のようであった。

次に続いた路線こそが、日本を代表する通勤路線である山手線。むろん、導入の目的は京阪と同じだ。改札口の位置などから、もっとも利用者が集中する、イコール、ターミナル駅での乗降が激しい10号車(内回りの場合、先頭から2両目)に1両を連結し、他の号車と同じようなタイミングで乗降が完了するようにされたのである。

いわれのない外野からの批判とは裏腹に、6扉車は乗り降りのしやすさから、肝心の通勤客には好意的に受け入れられた。吊り手や手すりなど、つかまる場所が多いため、座席がないことも「どうせ座れないなら同じこと」と、すんなり受け入れられた。それゆえバブル景気真っ最中の1990年代。1960~70年代と同じく輸送量増加への対応に追われていた首都圏の他の鉄道会社でも、多扉車を採用する例が現れている。

一方でマイナス面は、他の車両と扉の位置が異なると、整列乗車が乱れることだ。あるいは扉の数が多い分、座席の数が他の車両より少なく、日中の利用者には不評であることなどから、多扉車導入には慎重な会社もあった。例えば小田急電鉄では、扉の位置と数はそのまま、扉の幅を大きく広げた「ワイドドア車」を導入した。同種の車両は東京メトロ東西線にも登場している。

けれども、バブル崩壊後の不況期となると利用客数も頭打ちとなり、ラッシュ時の乗車率も好況期ほど高くはなくなってきた。こうなると、多扉車にとっての逆風も吹いてくる。特定の列車、号車に充当することを前提としているため両数が少なく、構造も特殊で、いわば「異端扱い」されるようにもなってきたのだ。

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