公共サービスが壊れる! 各地で相次ぐダンピング受注、官製ワーキングプアが蔓延

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 一般競争入札でのこれら企業の競争力はずば抜けている。ネットワークは10年度の入札で福岡法務局など3局の事務を落札。アイエー社と合わせると47局中、実に22局を獲得した。だが、ネットワークの事業遂行能力には疑問も持たれている。同社は09年に日本私立学校振興・共済事業団の業務を落札していながら、人材を確保できなかったために契約辞退届を提出。「不誠実な行為」を理由に、東京工業大学や秋田大学などから取引停止措置を受けていた。

法務省は、アイエー社など民間企業の事務の質をどう評価しているのか。法務省民事局は「確保されるべきサービスの質として、利用者の満足度にかかわる要求水準(80%以上の利用者から『満足』『ほぼ満足』『普通』との評価を得ること)を定めているが、全事業者の全委託庁について、この水準を大きく上回る評価を得ている」と回答している。つまり、すべての局で、十分な顧客満足度に達しているというのだ。市場化テストを推進する内閣府・公共サービス改革推進室の担当者も、「登記事務の民間開放では、事業の質に特段の問題は起きていない。基本的には難易度の低い仕事で、混乱も起こりにくい」と語っている。

だが、本当にそう言えるのか。アイエー社が受託した登記所を利用する複数の司法書士事務所に取材したところ、「登記事務に精通していない職員が多く、安易に『ありません』との答えが返ってくる」「誤って証明書を交付するなど間違いが目立つ」といった答えが多かった。

アイエー、ATG両社では、「契約に盛り込まれている職員配置が守られておらず、研修もまともに行われていない」(両社社員)。残業代不払いなどについても職員から法務局の担当部署に相談が寄せられているが、「労働条件に関しては口出しできない」などとして、事実上放置されているという。本誌はアイエー、ATG両社に取材を要請したが、応じても
らえなかった。

良質な公共サービスは国民生活の根幹だ。国は労働実態を含め委託業務の現状を再調査する必要がある。

(岡田広行、風間直樹、小河眞与 =週刊東洋経済2011年2月26日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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