広電が採用、ついに開始「大形連接車」の全扉乗降 最寄り扉での乗降が当たり前でない日本の現実

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広島電鉄の1000形での不正乗車率は、同社の調査では約1%とされ、効果については分散乗降によって乗り降りの混雑が緩和され、停車時間が短縮されたという。これはICカードだけに「セルフ乗車」を導入した結果であり、現金客(降車時に現金を支払う)にも導入すれば不正乗車率は下がり、効果が増すことは間違いない。

全扉乗降の案内ポスター(筆者撮影)

「セルフ乗車」の不正抑止策は抜き打ち改札であり、ICカード読取機で改札した乗車券を所持しているかをチェックする。ところが、わが国独特の現金客はチェックのしようがなく不正につながるおそれがある。また、現金客は「乗降扉指定」の不便から解放されず、複数人がまとまって降車すると時間がかかってダイヤに影響する。よって、現金客も「セルフ乗車」を導入し、事前に券売機で乗車券を購入し、ICカードのタッチに相当する動作、例えば、消印機で乗車券を消印(改札)するなど、乗客総員に同じ動作をしてもらうことが不正抑止のカギとなる。

「全扉乗降」の普及は急務

全車両・全乗客に「セルフ乗車」を導入して「全扉乗降」を実施するメリットとして、以下の3つが挙げられる。

① セルフ方式の運賃収受によって運賃収受時間の短縮。
② 全扉一斉乗降によって、乗降時間(停車時間)が短縮、部分低床車の導入が可能に。
③ 最寄りの扉での乗降によって、乗場と車内の混雑緩和、車内移動の解消。

大形連接車の「全扉乗降」開始から1カ月経った4月中旬に、「全扉乗降」を体験した。

夕刻の広島駅発広電宮島行きは、帰宅する人、繁華街に繰り出す人で混雑していたが、4つの扉での一斉乗降はスピーディーであり、また、混雑しても降車扉が近いから安心感がある。ただ、中間扉からの降車時に勢いよく乗車してくる人に戸惑うことがあった。これは、「全扉乗降」の十分な周知と、利用者の慣れを待つしかない。また、降車客を優先し、駆け込み乗車や降り遅れないことなど乗客の協力が不可欠だ。そして、次期新造車は「全扉乗降」に適した車両、つまり、扉の数と幅を増やしたい。

都市鉄道や高速鉄道は世界のトップ水準にあるわが国だが、路面電車は世界水準に遠く及ばない。広島の路面電車がやっと追いつく。

「全扉乗降」の他都市の路面電車への普及が急務だ。公共交通利用の促進策であり、これこそLRT化であり、LRT化助成金の使途に相応しい。

2025年には新広島駅ビルが完成する。路面電車は駅前大橋線を整備して駅ビル2階に乗り入れる。それまでに、ボギー車を含む全車両・全利用者に「セルフ乗車」を導入して「全扉乗降」が実施されるに違いない。

ベビーカーに子供を乗せたまま乗車できるから、マイカーより楽だ。しかも、乗った扉から降りられる。電車は楽だ。ママたちの楽しそうな姿がわが国でも見られる日は近い。

柚原 誠 技術士(機械部門)

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ゆはら まこと / Makoto Yuhara

1943年生まれ。岐阜大学工学部卒業。名古屋鉄道入社。鉄軌道車両の新造、改造、保守業務に従事。運転保安部長、交通事業本部副本部長、代表取締役副社長・鉄道事業本部長・安全統括管理者を経て2009年退任。この間に「人に優しい次世代ライトレール・システムの開発研究に関する検討会」に委員として参画。鉄道友の会副会長。技術士(機械部門)。

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