ロシア空軍が弱いのは米軍の30年前レベルだから 物量では勝るものの、精度や作戦が時代遅れ

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5月16日、ザトカの橋にさらに2発の巡航ミサイルが着弾し、アメリカ諜報当局によれば、もう1発は発射に失敗したため海に破棄された。ウクライナ当局は、道路や鉄道網が寸断され、2週間以上も使えない状態のままだと訴えた。南部作戦司令部は、「橋は損傷が大きく、修復にはかなりの時間と費用がかかるだろう」と述べた。

ザトカの橋の破壊を狙うロシア軍のやり方は、ベトナム戦争時にベトナム北部のタンホア鉄橋(ハノイから約112キロ南に位置)の破壊を狙ったアメリカのやり方を思い起こさせる。1964年に改修工事を終えたマー川にかかる全長約164メートルのその鉄橋(鉄道と道路の併用橋)は、交通量の多さから統合参謀本部により標的に決定された。北ベトナム側はそのことを知っており、複数の防空部隊で橋を防衛し、また複数のミグ17戦闘機を配置してアメリカを撃退した。

アメリカ空軍は、大規模な航空作戦「ローリング・サンダー」の開始から間もない1965年4月3日に、戦闘機と迎撃機あわせて67機を動員し、タンホア鉄橋への攻撃を開始した。使用されたのは、主に重力爆弾(無誘導の自由落下型爆弾「ダムボム」)だったが、誘導式空対地ミサイルのブルパップも合計で152発発射された。ブルパップはその大半が標的(橋)から逸れ、着弾したものも大した被害をもたらすことはなかった。翌日も同様の作戦が繰り返されたものの、橋を崩落させることはできなかった。

ベトナムから進化したアメリカ空軍

アメリカはその後、3年間にわたってタンホア鉄橋を寸断させようと、攻撃を試みたものの、橋は攻撃に持ちこたえた。アメリカの爆撃機が橋を損壊するたびに、北ベトナム側は橋を修復して交通を再開させた。1968年にアメリカが北爆の全面停止を宣言したことで、鉄橋への攻撃も一時停止された。その後、1972年5月にアメリカ空軍のF4ファントム戦闘機が第一世代のレーザー誘導弾「ペイブウェイ」26発をタンホア鉄橋に投下し、鉄橋の西側を使えなくした。そして同年10月6日に、最後の攻撃が実行された。4機のアメリカ海軍機から発射された誘導ミサイル「ウォールアイ」が、ついに鉄橋を完全に寸断することに成功した。

タンホア鉄橋の空爆は、アメリカにとっての近代戦のはじまりだった。当時のアメリカは、優先標的を破壊するのに十分な精密兵器も爆発規模も持っていなかった。タンホア鉄橋の破壊に苦労した反省から、爆発規模がより大きく、より精密な誘導が可能な複数の兵器が開発された。「一撃必殺」が新たな信念となった。1991年湾岸戦争での「砂漠の嵐作戦」までには、投下される爆弾の7%は精密誘導爆弾となっていた(ベトナム戦争時は1%未満だった)。同年のコソボ紛争における空中戦では、新たな(そして安価な)衛星誘導爆弾が、使用された兵器の35%を占めていた。2003年のイラク戦争までには、投下された爆弾の70%が誘導弾だった。

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