1人当たり潜在成長率、高める構造改革が必要--河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト《デフレ完全解明・インタビュー第12回(全12回)》

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05~07年には実質実効レートで見れば、プラザ合意以前に匹敵するような超円安が実現していた。円の減価と欧米のバブルに支えられ、日本のハイエンドの商品がものすごく売れた。日本企業はこの状況が続くと誤認した。国内でモノづくりをすることが割安となり、東海地区で人手不足になると、海外に進出せずに東北や九州に工場を造った。このときの資源配分の歪みが、いま構造調整圧力となって一気に噴出している。これが円高に対する悲鳴の原因だ。

デフレスパイラルではない、ゼロ成長期待のほうが問題

──では、今、非伝統的な金融政策に頼るべきではないのですね。

インフレ率を上げるだけなら、デフレ脱却基金を設けて、アグレッシブに株でもETFでも買えばできる。外貨を買えばもっと効くだろう。だが、これは政府が決める財政政策であって、中央銀行が決めるべき話ではない。

それに、公的債務が膨張しているため、インフレ醸成政策は、インフレ加速をもたらすおそれがある。1~2%の物価水準目標で抑える必要があるが、それでもリスクはある。政府の資本コストが1%上がれば、GDP比で1・8%の利払い増となり、公的債務が雪だるま式に増える。日銀の国債購入がマネタイゼーションと受け止められるおそれがある。事前に、財政健全化法を成立させ、債務償還は増税か歳出削減で必ず賄うという政府の約束が必要だ。

デフレから脱却できても、まったく別の理由である労働人口や総人口の減少の影響で、潜在成長率の低下が進んでいく。成長率が上がらない可能性が高いのに、一か八かのデフレ脱却策が必要とは思わない。

──デフレの弊害はあまりないと思いますか。

金融政策の有効性が失われるので、物価はスモールプラスが望ましい。ただ、日本は5%、10%ものデフレではないので、負債保有者の実質債務負担が増えていく状況にはない。物価下落が数量の悪化を引き起こすデフレスパイラルには陥っていない。通常、デフレが問題とされるのは名目賃金を下げられず、実質賃金が上昇することだが、日本の場合、97年の金融危機以降、名目賃金の下方硬直性が失われ、賃金調整が進んでいる。低賃金での雇用が増えていることは問題だが、雇用の数量調整は他国に比べると限定的である。また、実質賃金が増えない理由は、実物的な要因である可能性が高い。

議論は、日本の潜在成長率が低下している理由を、貨幣的なショックで実質金利が高まっていることによると見るのか、バランスシート調整や人口減少といった実物的なショックの影響と見るかで、分かれる。前者であれば、もっと激しいデフレになっているのではないか。

 主要先進国で唯一、デフレに陥っている日本。もう10年以上、抜け出せないままだ。物価が下がるだけでなく、経済全体が縮み志向となり、賃金・雇用も低迷が続く。どうしたらこの「迷宮」からはい出し、不景気風を吹っ飛ばせるのか。「大逆転」の処方箋を探る。 お求めはこちら(Amazon)

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