日高市メガソーラー訴訟「地裁で却下」の重大背景 山の斜面の太陽光発電設備、土砂災害への懸念

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家々が並ぶ隣の里山がメガソーラーの計画地。大雨の際の災害リスクを付近の住民は懸念した。(写真:河野博子撮影)

実際はどうなのか。山の斜面に設置された太陽光発電設備が土砂災害を引き起こすメカニズムについて、群馬大学の若井明彦教授(地盤工学)に聞いた。「降った雨は、その一部が林の木の枝葉に捕捉されて日射によりもういちど蒸発して空に帰る。伐採で裸地になると、雨が100%下に落ち、地面への浸透量が増える」「保水力のある木々がなくなり、地表に到達する雨水の量が増えるが、地面を覆うパネル沿いに、いっぺんに雨どいを伝わるように水が落ちる。地表に側溝を設けるなど排水路を十分に整備していないと、どこかが浸食して土砂が出てくる」

若井教授が説明したのは、まず、パネル設置前に林を伐採した影響。次に、地表面でパネルを設置すると同時に側溝や排水路などの手当が十分でない場合のリスク。また教授は、こうした要因に加え、「水はけが悪い山の地層の場合、降った雨が地下に浸透する速度がゆっくりなので、どんどん雨が降ってくると浸透することが間に合わなくなり、表流水が増える」「最近の気候変動の影響で、本来それほど雨の降らなかった地域でも雨が大量に降る可能性がある」点も考える必要があると話した。

条例で規制する市町村の増加続く、改正で規制強化も

太陽光発電事業者と地域住民の紛争を受け、発電設備の「適正」な建設のほか、自然や地域社会との「調和」を求める自治体の動きは2014年ころから始まった。一般財団法人・地方自治研究機構によると、2022年4月23日時点で太陽光発電設備の設置を規制する条例は、全国で189を数えた。うち都道府県条例は5、市町村条例は184にのぼった。2021、22年施行の条例を設置した市町村は表のとおり。

(外部配信先では表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

条例による規制の方法はさまざまだが、抑制区域を設定して事業者に届け出を義務づける、あるいは首長の同意または許可を必要とするタイプが多い。地域住民への説明や住民の理解を得ることの重要性を強調し、地域住民との協定の締結を義務づけた条例もある。

抑制区域は、土砂災害警戒区域や鳥獣保護区域などを列挙してピンポイントで指定することが多かった。最近は、市町村内全域を抑制区域に指定するケースも出てきた。

長野県富士見町は、今年2月に町議会臨時総会で条例の改正案を可決し、3月18日に施行された改正条例により、町内全域が抑制区域となった。

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