建設労働者の処遇改善が一向に進まないワケ 10年がかりで取り組むプロジェクトの弱点

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同機構は、2013年にも国交省の助成金で大工技能者を対象に、実証実験を行ない、中小工務店でも利用できるスマートフォンを使った簡易で安価なシステムも開発済みだ。国交省でも、同システムの本格導入に向けて調査費を予算計上したこともあったが、最近はトーンダウンした印象すら感じる。「ぜひシステム導入を実現させたい」(国交省首脳)とは言うのだが、具体的な計画やスケジュールが決まらない状況が続く。これでは技能労働者の処遇改善にもつながらない。

一方で、2016年1月に始まるマイナンバー制度への期待もある。基礎年金や健康保険、雇用保険や住民票コードなど、行政事務が割り当てた個人を特定する番号はバラバラだ。それを一括管理するための仕組みがマイナンバーである。

中小業者に管理できるのか

これが導入されると、建設業の大半を占める中小零細業者もマイナンバーに基づく給与管理などが義務づけられる。その反面、就労履歴登録機構からみると、「マイナンバーは企業に対してセキュリティ対策が義務付けられ、罰則規定も厳しい。下請け業者にマイナンバーを管理できるのか。就労履歴管理システムを活用して対応すべきではないか」(事務局)という。

将来的には、マイナンバー制度と就労履歴管理システムを連携して、労働者に適切に給与が支払われていることをチェックする仕組みをつくることもできる。

「労働者に共通IDカードを配布するための費用などで、数億円の予算をつけてくれれば就労履歴管理システムの普及を始められる。マイナンバー制度の促進にもなる」と機構関係者は期待するが、果たして実現するだろうか。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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