金融緩和政策の拡大と、TPPなど成長戦略を--岩田一政・日本経済研究センター理事長・元日本銀行副総裁《デフレ完全解明・インタビュー第3回(全12回)》

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財政で大事なのは賢明なる支出

──財政政策には財政難で大きな制約があります。

財政政策で重要なのは、ケインズも述べているように「ワイズ・スペンディング(賢明なる支出)」。たとえば今、農業の補助金として毎年約4兆円以上も費やしている。この補助金はコメの減反政策の維持を軸としたもので、農業を弱くする後ろ向きの政策だ。生産性が高く、拡大意欲の旺盛な農家の頭を押さえてしまう。このおカネを、貿易自由化や地域的統合を進めるための前向きのおカネに転換すれば、日本にとって、より大きな成果が上がるはずだ。

また、グリーン・グロースに関連して、CO2排出量に比例する形での環境税を導入することが必要だ。今の政府の対策は、石油・石炭税を幾分上乗せするもので、CO2排出量に比例したものではない。今のエネルギー関連税制を抜本的に再編すれば、税収はむしろ増えるだろう。

人材育成については、知恵を絞るのは、むしろ民間の経営の役割。非正規社員をどう扱うかは、企業内の人的資源をどう育て、どう生産性を上げていくかの問題だ。

──為替政策も重要性ですか。

03~04年の巨額為替介入は批判も多かったが、1ドル=110~120円近傍で為替レートを安定化させる効果があった。これが量的緩和を実施していた金融政策をバックアップし、デフレ脱出の可能性を高めたと思う。金融緩和をしながらの通貨安競争ならば、世界経済にとってもプラスに働く。

10年9月にも、政府は(約6年半ぶりに)円売りドル買い介入を行い、円高歯止めに一定の効果があった。今の80円台前半の水準で安定しているならば、さらなる介入の必要はないだろう。

──デフレ脱却時期はいつ頃だと見ていますか。

日銀の見通し(展望レポート)では、物価上昇率は11年度に0・1%、12年度に0・6%としており、日銀は12年度にデフレを脱却できると考えている。しかし、潜在成長率を0・5%と仮定すれば、今の日銀の経済成長見通しでは12年度でもGDPギャップが残る。11年8月の消費者物価基準年変更もあり、デフレ脱却は困難である。日銀がもし最適の金融政策を行うならば、より拡大的になることが必要だ。

いわた・かずまさ
1946年生まれ。70年東京大学教養学部卒業、経済企画庁入庁。同庁経済研究所主任研究官を経て86年、東京大学教養学部助教授。91年、同大教授。2001年内閣府政策統括官。03年3月~08年3月まで日本銀行副総裁。08年6月内閣府経済社会総合研究所所長。10年10月より現職。東京大学名誉教授。
撮影:今井康一

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