ジャック・アタリが語る日本の「エネルギー問題」 「欧州の知性」が予測、新冷戦後の地政学リスク

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独裁政権下では、市場経済は持続的に機能しない。なぜなら、市場には安定した法規制が必要であり、とくに所有権を確約しなければならないからだ。ところが、法全般や私有財産に対する恣意的な支配こそが独裁政権の特性となる。

そして独裁政権下では、批判的な考察やイノベーションに不可欠な透明性を育むことができない。これはチリやソビエト連邦などの例からも明らかだ。

ジャック・アタリ(Jacques Attali)/経済学者・思想家・作家。1943年アルジェリア生まれ。81年仏大統領特別顧問、91年欧州復興開発銀行総裁など要職を歴任。「欧州最高の知性」と称されるフランスの知識人。著書に『命の経済』『2030年ジャック・アタリの未来予測』『21世紀の歴史』『国家債務危機』など多数。(写真:opale.photo/アフロ)

――ロシアにエネルギー資源を依存してきた欧州諸国の中には、資源高によるインフレの進行や原発新設の動きも見られます。エネルギーの「脱ロシア」は、世界にどのような影響を及ぼすでしょうか。

脱ロシアにより、EU諸国は持続可能なエネルギーへの移行を加速させ、脱炭素社会の模範生になるだろう。

EU諸国は知性と創造力が富の源泉となる調和のとれた「命の社会」を実現していく。他国もこのEUモデルに追随するはずだ。一方、産油国は新たな富の源泉を早急に見つけ出す必要が出てくるだろう。

化石資源の脱却は既定路線

――そうはいっても、世界経済は深刻な景気後退に陥る懸念はないでしょうか。

いや、そうはならない。今回の危機にかかわらず、化石エネルギーからの脱却は既定路線だった。この移行が実現すれば、欧州諸国は先行者利益を得ることができる。

――迫りくる危機と世界の分断化に直面し、世界はアタリ氏の説く「命の経済」から「死の経済」へ向かっているようにも見えます。今後、脱炭素化の潮流はどうなるとみていますか。

私は著書などを通じて、「死の経済」から一刻も早く抜け出し、「命の経済」へと移行しなければならないと繰り返し説いてきた。というのも、これは人類のサバイバル(存続)に関わる問題だからだ。

もたもたしていると、人類は消滅してしまう。われわれはこの移行を実現させるために全精力を注ぐ必要がある。日本も「命の経済」のモデルになれるだろう。

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