日本だけが「出口なき金融政策」を実行する謎 実は歯止めが効いている、ECBの金融緩和策

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つまり、世界で、日本だけが、異次元緩和という文字通り、異次元世界の、量的・質的緩和という得体の知れないものを行っているのだ。

出口なき道を歩んでいるのは日本だけ

しかも、出口については議論せず、国債をいつまで買い入れるのか見えてこない、出口のない道を歩んでいるのは、世界で日本だけなのだ。

さらに言えば、物価目標を一義的なメインの目標としているのは日本銀行だけであり、しかも、期待インフレ率という中央銀行にとっては直接コントロール手段を持たないものを動かそうとしているのは、黒田総裁だけなのだ。

米国のフォワードガイダンスは、金利の見通しであり、投資家たちの中央銀行の行動の将来予測をコントロールするための道具なのだ。金利は、まさに中央銀行が直接コントロールするものであるから、それへの投資家の期待を動かそうとするのは、自然であり、可能である。

一方、インフレ自体をコントロールできず、インフレの動きを注視することしかできず、インフレ目標と言っても、そこへ直接到達する手段を持たないのは、昨今の物価の動きを見ても明白であるから、さらに、その期待値をコントロールするなど、無謀と言うよりは理論的に不適切なのである。

このようにコントロールできないものをコントロールしようとし、しかも、2%の達成を何よりも優先するのであるから、達成が見えない以上、量的緩和の出口も見えず、量的緩和の大きな副作用が生じる可能性が極めて高くなっているのである。

したがって、今後、量的緩和の副作用を心配する必要があるのは、欧州ではなく、日本なのであり、世界で日本だけなのだ。それぐらい、世界的に異常な金融政策を行っているのが日本なのだ。
 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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