アジアの経済成長が欧米にもたらす希望 ゴードン・ブラウン前英国首相

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 西欧は、「中国で消費のGDPに占める比率が今後3年間に2~4ポイント上昇すれば(この数字は、セーフティネットの整備と減税などを進めれば十分に達成可能)、欧米も公共投資を同じ規模だけ拡大する」と提案すべきである。他のアジア諸国も同じ目標を達成し、海外の企業と同じ競争条件を整えると合意すれば、西欧は新たに5000万人の雇用を創出できるはずだ。

もちろん、こうした提案は西欧で反発を招くだろう。批判者たちは、「公共投資の増大は財政赤字削減と逆行し、金利の上昇を招く」と警告を発するに違いない。

しかし、批判者の指摘は間違っている。最近のIMF(国際通貨基金)の研究では、欧米が追加的な設備投資から恩恵を受けながら、財政赤字削減計画を維持することは可能だと、証明されている。

その研究は、西欧が今後3年間に資本投資の水準を高めることによって長期的な成長を引き上げることができることを示している。具体的には、毎年、GDPの0・3%に相当する刺激策を講じることで、13年のアメリカ経済の成長率は0・8%、ヨーロッパ経済の成長率は0・4%高まるという。

つまり、成長を確保する一方で財政赤字を拡大させることなく失業率を低下させる政策が必要なのである。それが、民間部門を活性化し、企業の手元に累積されている潤沢な資金の活用を促すのだ。そうした状況の中で西欧は世界経済の再生を担うよい立場にある。西欧の優れた労働者は世界第一級の商品とサービスを生産しているのだから。

(週刊東洋経済2011年2月19日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Gordon Brown
第74代英国首相(2007~10年)。1951年スコットランド生まれ。エディンバラ大学で博士号取得(歴史学)。1997年から07年までブレア政権で財務大臣を務める。著書に『Beyond the Crash:Overcoming the First Crisis of Globalization』がある。

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