「パートは無理」から変わった育休の「新しい制度」 「産後パパ育休」導入で父親の育休も一歩前進

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これまではカオリさんのようなケースでは、泣き寝入りせざるをえませんでした。それは、パートやアルバイトなど決められた期間だけ働く有期雇用労働者が育児休暇をとるには、「引き続き雇用された期間が1年以上」「1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかではない」という要件があったためです。

妊娠が4月以前なら、入社して半年のパートであるカオリさんはこの要件を満たさないので、育休取得を認められない可能性が高かったのです。

しかし、今回の法改正で、こうした会社の対応は許されなくなります。「入社1年以上」という休業取得要件が撤廃されたからです。パートやアルバイトの方も、今後は正社員のような無期雇用労働者と同じく、入社直後から育児休暇や介護休暇を取得できるようになります。これで育休取得のハードルは、今までよりぐっと下がったのではないでしょうか。

さらに企業側は、妊娠・出産を予定している従業員に対して、育児休業制度などがあることを知らせ、制度を利用する意向があるかどうかを確認することも義務づけられました。これが「個別の周知・意向確認の措置の義務化」です。

上司は、「計画性のない妊娠や出産は、ほかの社員に迷惑」などと批判している場合ではありません(こうした言動は明確にマタニティー・ハラスメントに該当します)。カオリさんのような人たちにも育児休業制度があることを伝え、その制度を利用する意向を確認するという義務が新たに必要になったのです。

個別の周知や意向確認の有無は、育休の取得率にも影響します。

「妊娠や出産を会社に伝えた際に、会社から説明や働きかけがあったかどうか」の調査を見ると、「特にない」と答えた割合は、女性正社員が20.2%、女性非正社員が29.8%で、男性正社員が63.2%で、女性社員の2~3割、男性正社員の約3分の2が、育休についての説明を会社から受けていませんでした(「平成30年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」より)。

また「男性の子育て目的の休暇取得に関する調査研究」(令和元年)によると、男性従業員の育休取得率(妊娠中から出生後2カ月までの取得率は、制度の説明などの取り組みや上司の理解があった場合には88.6%と高かったのに対し、こうした取り組みや上司の理解がない場合には69.5%でした。

いくら育休制度があっても、制度のことを社員などに伝え、その意向を確認しなければ、取得率は低いままです。今回の改正で、企業側の周知への取り組みが改善されることが期待されます。

「産後パパ育休制度」の創設に注目

 2022年10月1日からは、以下の改正も施行されます。

③産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
④育児休業の分割取得

注目すべきポイントは、男性の育児参加を促進する「産後パパ育休」が創設されたことでしょう。法改正が施行されると、どのようなことが可能になるのか。ともに正社員として勤めているケンジさんとユミさん(いずれも仮名)の夫婦でシミュレーションしたいと思います。

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