シャルリの描き方の違いに見る差別意識 塩尻宏・元駐リビア大使に聞く(前編)

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同時に我々が留意しなければならないことは、「シャルリ・エブド」紙のように「表現の自由」を旗印に節度も節操もなく他人の嫌がる風刺画を描き続ける人も、今回の襲撃事件を起こしたイスラーム教過激派の人も、ともに極端な行為に走る少数の人々であるということです。

大多数のイスラーム教徒は安寧と平穏を願う

あまり報道されませんが、フランス国内でもその他欧州諸国でも「シャルリ・エブド」紙の行き過ぎた報道を批判する人々もあり、デモも行われている。イスラーム世界でも預言者ムハンマドの尊厳を傷つける風刺画に怒りを感じているものの、圧倒的多数のイスラーム教徒は、今回の過激派の行為を支持しているわけではありません。

最近の資料(Pew Research Center, 2012.12.18)では、2010年時点のキリスト教徒の総数は約22億人(世界人口の31.5%)、次いで多いイスラーム教徒は約16億人(同23%)とされています。人口増加率はイスラーム社会の方が高いので、やがてはキリスト教徒人口を凌ぐ日が来るかもしれません。

他の主要宗教と同様にイスラーム教の信徒たちも、その大多数は心の安寧と日々の平穏を願って生活しています。神経を逆なでされるような出来事に遭えば、誰も怒りを覚えるのは自然なことです。しかし、怒りに任せて見境のない行動をすることが、イスラーム教の教義に起因するという見方は見当違いだと思います。

エジプトのカイロにはスンニー派イスラーム世界の最高学府とされるアズハル大学があります。今回の「シャルリ・エブド」紙への襲撃事件について、そのアズハル大学は「今回の犯罪的行為を非難する。イスラームはあらゆる暴力を糾弾している」との声明を即日発表し、併せて、「例えイスラーム教徒の感情を傷つける行為に対しても、暴力で対抗することは認められない」との責任者の発言が伝えられています。

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