出産2泊3日で120万円!?「無保険社会」の恐怖 アメリカでは、救急車を呼ぶかどうか確認

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米国では交通事故でケガをした人に「救急車は呼ぶか?」と確認します。払えない人が多いからと聞いてはいたのですが、その事情がよくわかりました。

参考までにと、保険会社にそれ以外の費用も尋ねたのですが、病院利用費4427ドル、救急医師代1118ドル、抜糸329ドル。救急車と合わせると総額なんと7079ドル(約83万円)! たかだか脳振とうと、4針縫っただけで、こんな額を請求されるのです。

国民皆保険がある国に生きる幸せ

米国の保守派は、医療保険というのは国民にあまねく施すものではなく、努力して勝ち取るものだと考えます。7000ドルの請求が来てもちゃんと払えるような医療保険に自分で入るか、そんな医療保険を持つ会社に勤められるよう努力する。入れないような怠け者のために自分たちの税金を使ってほしくない。なので、国民みんなが入れるようにするオバマケアを、「税金の無駄遣い」と厳しく批判するのです。

一方で医療保険というのは、若い健康な人がおカネを払うからこそ、お年寄りなど高額の医療費を必要とする人たちに安価な医療サービスを提供できるわけで、国民皆保険制度は先進社会では不可欠なはずです。

医療も子育てもすべて自己責任で、政府に頼ろうとしない米国。医療も子育てもすべて無料で、消費税が25%前後の北欧。私たちの将来の途が、この両極の間のどこかにあることは間違いないでしょう。

私は、公的保育にもっと税金を使うべきだという立場を取ります。したがって当然ですが、消費税は最低でも15%程度まで上げざるをえないと考えています。

超高齢社会では、所得税を払う働く人の比率がどんどん低くなるので、大型の間接税は不可欠です。今のままでは、私たちの子どもや孫に、借金を押し付けているだけではないでしょうか? それとも、出産に120万円払う社会のほうがいいですか?

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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