国際文化会館とAPIは統合で一体何を目指すのか 船橋API理事長と近藤・国際文化会館理事長に聞く

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――船橋さんは、「アジアを代表する知と文化の拠点とグローバル・シンクタンクをつくる」と合併の意図を説明されていますが、「グローバル・シンクタンク」で何を目指しておられるのでしょうか。

船橋:今般の世界では、ポピュリズムが跋扈(ばっこ)し、民主主義そのものが危機にさらされています。そうした民主主義の危機に対応するにあたって、日本一国で知恵を出したり対応したりできる時代ではありません。気候変動にしても、地政学的課題、地経学的課題にしても、私たちが抱える課題はすべてグローバルな課題です。

ウクライナ戦争をみても、ウクライナ政府のIT大臣が呼びかけたらアノニマスも含め世界中から10万人以上の人が“参戦”しています。企業も“参戦”しています。例えばイーロン・マスクは衛星インターネットプロバイダーを提供し、ウクライナを支援しました。ロシアに破壊されたウクライナのインターネット・インフラを、瞬く間に回復させたんです。だから、アゾフ大隊の司令官も副司令官も毎日、SNSで世界に発信することができている。

独立と主権を守るギリギリの自衛の戦いを、自分の力の限りを尽くして戦う、大義と生存のために自らを守る国と国民を世界も一緒に守ろうとする。自衛戦争はグローバルな営為なのですね。世界と共通言語を持ち、国際秩序とルールをともに作り上げなければならない。私にとってのグローバル・シンクタンクとはそのような戦略的意味を秘めている存在です。

近藤:グローバル、デジタル、多様なステークホルダーとの共創がますます重要になりますが、これらは日本政府が弱いところでもあります。ですから、そこは民間の力を使って補っていかなければならない。だからグローバル・シンクタンクなのです。

政策の自前主義ではアイデアの市場は生まれない

――最後の質問です。APIはこれまでもグローバル・シンクタンクを志向されてきたと思いますが、そのようなシンクタンクがこれまで日本で育ってこなかったのはなぜなのでしょうか。今後、日本に多くの民間シンクタンクが育っていくためにはどのようなことが必要でしょうか

船橋:いくつか背景があると思います。<民間・独立・グローバルの思想>と立脚点がひ弱だということが1つです。この点は、私たちは福沢諭吉や渋沢栄一にもっと学ばなければなりません。それから、企業や大学の無関心。企業は明らかに変わりつつありますが、多くの大学にはその発想すらない。政府は変わる必要性はわかっていても、変われません。

さらに言うと、ニーズがなかったということですかね。霞が関は伝統的に自前主義です。そのため、グローバル化や技術革新についていけません。国内のルール・メーキングにこだわりすぎて、グローバル・ループに入れないからでしょう。政策の自前主義ではアイデアの市場は生まれません。だから、シンクタンクが育たなかった。

近藤:国際秩序が大きく動くときには、国の立ち位置を議論して、選択することが不可欠になります。福沢や渋沢が生きた明治期はまさにそうした時代でした。また、国際文化会館が創設された戦後も同様です。

そして、いま、世界の秩序は再び激しく揺らぎ始めています。ロシアのウクライナ侵攻は、世界の秩序への挑戦です。米中対立は、短期ではなく中長期の構造的課題です。次の10年、20年の日本の選択が、日本だけでなく、アジア太平洋、世界の平和と繁栄に大きな影響を与えます。

だから、今こそ、日本にグローバル・シンクタンクが求められているのだと思います。

前編:「国際文化会館とAPI『合併』で目指す新境地の展望」(5月10日配信)

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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