「働きたい専業ママ」の未来は明るい! 人手不足に悩む企業にとっても救世主に

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初日のオリエンテーションで、宇佐美さんは子育て中に培ったスキルを思いつくまま付箋に書き込んでいくワークを実施した。マルチタスク能力、コミュニケーション能力、時間管理能力、忍耐、料理の腕、おおらかな心、体力・腕力、段取り力、行政への関心、歌をたくさん歌える……。ママたちの手でさまざまなスキルが書き込まれた付箋が次々と貼られていった。

約1カ月にわたるインターンの終了後、参加したママの1人は晴れ晴れした表情でこう言った。「前職で自分が積んできた経験のうえに、ママとしての経験が重なって、いろいろな目線から物事を見ることができるようになったということがわかりました。ブランクは空白期間じゃないって考えが変わったのが大きな収穫です」。

「とにかく有能!」企業も積極的にママを活用

こうしたママたちを積極的に活用しようという企業も出てきた。

「とにかく有能ですよ。段取りがうまくて、限られた時間でもシャキシャキ物事を処理してくれる。マルチタスクが得意で気も利く」。アウトドア用品などの輸入販売を行うある企業の社長は話す。この企業は、主婦のパート派遣を行うビースタイルを通じて、4人の主婦派遣に営業事務を任せている。彼女らは、週3日勤務でワークシェアリングを行っている。「人材紹介会社に求人を出してもさっぱり音沙汰がない。今や個人の事情に合わせないと有能な人は雇えない時代。仕事で成果さえ出してくれれば、フルタイム正社員じゃなきゃ困るということはなくなりましたね」。

埼玉県のある建材会社は、1人の主婦に新規事業の営業を業務委託で任せている。専門スキルを持つ主婦と企業のマッチングを行うWaris(ワリス)を通じて、総合商社での営業経験がある女性の紹介を受けたのだ。仕事は基本的に在宅で行い、必要に応じて打ち合わせや新規クライアントの訪問などに出向いてもらう。「とにかくアイデアの引き出しが豊富。大手企業で世界を相手にお仕事をされていたせいか、物おじすることなく新規開拓を進めてくれるので助かっている」と社長は話す。

週刊東洋経済臨時増刊「ワークアゲイン」は1月30日発売

企業の人手不足は時を追うごとに深刻さを増しており、「ハローワークに求人を出しても、欲しい人材がなかなか採れない」「親の介護で離職した社員のポストが1年以上空いたまま」という声は後を絶たない。

2014年にマンパワージャパンが東京、名古屋、大阪1043社を対象に行った調査によれば、人材の確保が難しいと答えた企業は890社にも及び、その理由として「適切な応募者が市場にいない」「対人力の不足」「仕事に対する熱意やモチベーション不足」「チームワークや協調性の不足」「柔軟性・順応性・敏捷性の不足」などが挙がった。

人手不足に悩む企業の救世主となる可能性

働きたいと思っている主婦はまだ労働市場に出てきていない。しかも、コミュニケーション能力に長け、子育てを通じて柔軟性や順応性を身につけたというママは多い。「働きたい」という気持ちを抱いたままブランクを過ごしており、仕事に対するモチベーションも高い。ママたちこそ、人手不足に悩む企業の救世主となる可能性があるのだ。

日本の労働力人口は減少の一途をたどっている。2013年に6577万人だった労働力人口はこの先も増えることなく、内閣府の試算によれば、2030年に5683万人、2060年には4390万人にまで減る見通しだ。

ただし、こんなシミュレーションがある。30~49歳の女性の労働力率を85%まで引き上げるなど、女性や高齢者の労働参加を勧めた場合、2030年の労働力人口は6285万人にとどめられる。さらに、30~49歳の女性の労働力率をスウェーデン並みの90%にまで引き上げるなどすれば、2060年の労働力人口は5407万人にとどめられる。

ママたちの社会参加は、日本社会の将来にとっても必要不可欠なことなのだ。

堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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