地域創生への挑戦 清成忠男著 ~創業の活発化による中小企業の集積を提唱

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地域創生への挑戦 清成忠男著 ~創業の活発化による中小企業の集積を提唱

評者 高橋伸彰 立命館大学教授

 本書は40年以上にわたり地域研究に携わってきた著者が、これまで展開してきた議論を、「現時点の経済環境・経済問題の追及・政策提言の視点から発展させたものである」。喜寿を迎えた著者が、リーマンショックや民主党による政権交代をも射程に入れて筆を執った背景には、今こそ新しい地域創りが必要だという時代認識がある。

まず1970年代に玉野井芳郎氏が提唱し、その実践に著者自身も参加した「地域に生きる生活者たちがその自然・歴史・風土を背景に、その地域社会にたいして一体感をもち、経済的自立性をふまえて、みずからの政治的・行政的自律性と文化的独自性を追求する」という地域主義は、東京一極集中の前で幻想に終わったのかと問う。著者の答えはノーであり、グローバル化、成長率の低下、高齢化といった構造的な制約が増すなかで「むしろ、内発的地域振興の必要性はますます強まっている」と言う。

著者の持論である「内発的振興(発展)」とは、企業誘致や財政による所得移転には依存せず、住民が主役となって地域経済の自立を目指すことである。期待される担い手は情熱と専門能力をもって地域の自立に取り組む人財と、中小企業である。人財は当然としても中小企業が重要なのは、特定の地域にしか立地していない大企業とは異なり、中小企業は全国どこにでも存在しているからだ。「中小企業の活動が地域に貢献すれば、地域経済は安定する。地域に数多くの中小企業が集積され、これが活躍すれば、地域経済は発展する」と著者は主張する。

これに対し、政権交代を実現した民主党の「新成長戦略」には担い手論が欠如しているだけではなく、自民党時代と同様に「地域は疲弊した存在、中小企業は弱者としてしかとらえられていない」と不満を示す。革新的な中小企業の登場で力強く発展している地域も少なくないことに鑑みれば、「中小企業弱者論」からスタートするのではなく、中小企業をもっと伸ばすことに政策は焦点を当てるべきだと著者は言う。中小企業は、地域の外部に市場を求める大企業とは違い、「地元のコミュニティに貢献しないと利益をあげることはできない」からだ。

そこで重要となるのが、いかに創業を活発化させるかだ。創業が停滞すれば、内発的な新産業の創出は期待できず、地域の発展も望めない。しかし、個別地域の努力だけでは限界があることも事実だ。持続可能な発展をはじめとする、経済社会のパラダイム・シフトに適合した国土構造の再構築を著者が求める理由もここにある。地域主義の現代的意義を再確認させる書。

きよなり・ただお
法政大学名誉教授、地域活性学会会長。1933年生まれ。東京大学経済学部卒。法政大学経営学部教授、学部長を経て、96~2005年法政大学総長・理事長。大学基準協会会長、中央酒類審議会会長、沖縄振興開発審議会会長など歴任。

有斐閣 3465円 262ページ

  

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