中国の金融パワー確保に立ちはだかる数々の難題 経済の結びつき強い日中間の金融協力のあり方

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こうした動きは、中国の「一帯一路構想」と絡めて首脳外交で取り上げられることも多く、国際社会はそこには同国の影響力強化を狙う政治的な思惑が反映されていると捉えがちである。しかし、実務を担う人民銀行や財政部の幹部の発言などからは、「米ドル基軸体制への挑戦」といった意図は感じられない。

それは、現状では米ドルと人民元の通用力の差が大きいからであろう。例えば、国際銀行間通信協会(SWIFT)によれば、2022年3月の世界のクロスボーダー決済における利用通貨のシェアは、米ドルの41.1%に対し、人民元は2.2%にすぎない。

また、2016年10月に人民元がIMFのSDR構成通貨に加えられた後、公的外貨準備に人民元を組み入れる国も増えているが、2021年末時点の149報告者全体の公的外貨準備に占める通貨別シェアは、米ドルの58.8%に対し、人民元は2.8%である。中国の資本取引規制が厳しい以上、人民元利用の広がりには限界があるということだろう。

他方、近年、中国は金融サービスのデジタル化を奨励しているが、その狙いは

① 金融取引の効率性と利便性の向上
② 中国の対外的金融パワーの強化
③ 新たな国際ルール作りにおける主導的地位の確保

などにあると思われる。このうち②については、資本取引規制の緩和にかなりの時間を要するならば、短期的な成果は期待できず、当面は①と③に政策の重点が置かれるものと予想される。

実際、人民銀行は「デジタル人民元研究開発進展白書」(2021年7月公表)において、デジタル人民元の国際的利用にはなお課題が多いと説明すると同時に、デジタル人民元の実証実験をベースに、G20などの呼びかけに積極的に呼応して国際間決済システムの改善を提案していく意欲を示している。

日中金融協力の視点

最後に、今後の日中間の金融協力のあり方について考えてみたい。

金融面では、両国の企業や投資家が双方の市場を自由に安心して利用できる環境整備が求められている。現在は、中国の資本取引規制だけでなく、経済以外の要素に起因する不安定性がネックになっている。しかし、両国経済の結びつきが深まっていることも事実である。

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