6カ月隔離も、日本「ペット持ち込み」厳しい事情 ウクライナ避難民のペット帯同で話題に

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また、ウクライナからの避難民はペットを観察し、定期的に動物検疫所に報告しなければならいほか、検疫官がペットの様子を観察に行く必要があります。この時、近所の人やマスコミは騒ぎ立てるのではなく、検疫中のペットや避難民を遠くから見守るのが望ましいですね。

それでは逆に、日本から犬や猫を他国に連れて行く場合はどうでしょうか。動物検疫所のホームページによると、上記の狂犬病の清浄国であるかどうかでも変わってきますが、各国によって条件が異なりますので、各国の大使館や動物検疫機関に問い合わせる必要があります。

筆者は過去に、日本に住んでいたニュージーランド人が、帰国するときに、猫を連れて帰るのに伴って、ニュージーランドに猫を入国させたための検疫の書類を書いたことがあります。

日本もニュージーランドも狂犬病の清浄国ですので、日本から犬や猫を輸出する書類は簡単ですが、それでもなかなか面倒でした。

日本の滞在機関が30日以上の場合、狂犬病の血液検査が求められるほか、出発30日以内、4日以内、2日以内の外部、および内部寄生虫の駆除薬投与や、猫の混合ワクチンを受けなくてはなりません。出国する48時間以内に獣医師から発行された英文の健康診断書も必要です。

冷静な議論が必要

もちろん侵攻などは、前持ってわかっているわけではありません。避難民に人道的支援をすることは、大切だと思います。母国でないところで暮らすわけですから、不安も多い中、ペットと一緒にいることでずいぶんと癒やされることでしょう。

それを十分に理解したうえで、ウクライナからぺットとともに来る人たちにも、日本にペットを連れてくるときは、検疫があり、最長180日間の係留期間があることを納得してもらう必要があるのでないでしょうか。もちろん、検疫の費用や自宅から動物検疫所への交通費も無料にする必要があると筆者は考えています。

ウクライナ避難民の訴えから日本の犬の検疫システムに注目が集まり、狂犬病について考える人が増えたことはいいことです。議論することは大切ですが、狂犬病が致死率100%で、潜伏期間が長い伝染病だということを念頭に置いて発言したいものです。そして、日本でも犬の飼い主は、狂犬病予防ワクチンは打つことを厳守しましょう。

石井 万寿美 まねき猫ホスピタル院長、獣医師、作家

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いしいますみ / Masumi Ishii

大阪市生まれ。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。『動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)』シリーズ、『ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)』など著書多数。シニア犬と暮らす。

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