台湾に好例「GAFAに独占されぬネット空間」作る術 自由で安全に意見交換できる公共の場が必要だ

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政策請願書を出したり、参加型予算編成に意見を言ったり、総統杯ハッカソン(公共政策のアイデアをプレゼンする大会)へ投票したいとき、台湾の市民は、政府が管理する公共のデジタル空間を利用するからです。

唐鳳(Audrey Tang)1981年生まれ。幼少時から独学でプログラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、起業などを経て、35歳のときに史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員(閣僚)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担う(写真提供:NHK出版)

これらのインフラは、GAFAにまったく独占されていません。つまりこれが、公共インフラや市民インフラへの投資が、社会にもたらす変化なのです。

もし市民に与えられた選択肢が、娯楽施設のナイトクラブ――大音量の音楽、煙が充満した部屋、警備員がいてアルコールや広告に満ちた場所――だけだったらどうでしょう? 厳密に言うと、それは娯楽施設の問題ではないし、私は、娯楽施設そのものは大いに尊敬しているんですけどね……。

堤:大いに尊敬(笑)。いやでも、その話はぎくりとさせられますね。自由に意見を交わし合う場があれば、人々はちゃんと政治に参加する。それを台湾が証明している以上、私たちはフェイスブックやツイッターのアルゴリズム検閲だけに責任を被せて、文句ばかり言っていられません。

つまり重要なのは、実施する「方法」ではなく、実施する「場所」だと。

タン:まさにおっしゃるとおりです。どの区域かも重要ですよね。人は何かを学びたければキャンパスに行きますし、読書会か何かを開きたければ公立図書館に行くでしょう。でも、娯楽施設のラウンジとダンスクラブしかなかったら、それは選択肢ではありません。

堤:やはりここでもまた、「選択肢」がキーワード。GAFAに独占されない公共の場を作ることは、今後どの国にとっても、民主主義を持続可能にする公共投資として、予算に組み込む必要がありますね。

タン:同感です、とても重要なことですね。

物理的な公共空間が年々減っている日本への危機感

堤:「公共空間の消滅」は、私がデジタル化以前から危機感を感じて、取材、発信してきたテーマの1つでした。

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、同大学院国際関係論学科修士号。国連などを経て現職。中央公論新書大賞、エッセイストクラブ賞、日本ジャーナリスト会議賞など複数受賞。「ルポ貧困大国アメリカ」「日本が売られる」など多くの著書が海外で翻訳されている(写真提供:NHK出版)

1980年代以降、日本ではコスト削減と効率化を中心にあらゆる政策が進められたシワ寄せで、公立図書館や公園、公民館など、物理的な公共空間が年々少なくなっているからです。

じゃあフェイスブックやツイッターのようなSNSが代わりになるかと言えば、見えないアルゴリズム検閲やフィルターバブル、異なる意見への誹謗中傷への心配などがあり、やはり本来の自由で安全な意見交換の場とは、とてもいえません。

タン:言えないですね。だからこそ私たちは今まさに、市民をそういう心配から解放する、安全な場を設計している最中なんです。

堤:私は社会をデジタル化するときに一番大事なことは、「公共」の精神を中心におくことだと思っています。

今、各国がデジタル化を進めていますが、ビジネス論理だけで行政サービスをデジタル化した結果、弱者切り捨てが加速したアメリカの失敗例や、公益にこだわる設計で人々の満足度を高めている台湾の成功例など、つくづくテクノロジーは、使う側の思想が、結果を決めていることを感じます。だから日本も焦らずに、世界のいろいろな事例をよく見たうえで、人々を本当に幸福にするデジタル民主主義を入れていきたいです。

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