「報道の自由」は世界共通のルールなのか 世界新聞・ニュース発行者協会の幹部に聞く

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──WAN-IFRAのウェブサイトではどのような決断を下したのか。

編集会議で話し合い、画像を掲載した加盟社のウェブサイトにリンクすることにした。見たい人はリンクに飛んで見ることができる。

今回の悲劇を通して見えてきたのは、私たちは全ての人の意見を尊重しなければならないということだ。見たくない人には出さないが、見たい人が見る権利を否定しないことだ。バランスをとるのは非常に難しい。

ある言論や画像について、誰かが侮辱されたと感じるとしよう。これは必ずしも悪いことではない。ただ、侮辱されたと感じた人が銃を手に持って編集室に入り、スタッフを殺す、あるい憎悪を引き金にした犯罪起こすのはいけない。憎悪を引き起こすような報道・表現が何かについては法的な定義がある。人権を重視する時代に報道の自由を維持するためには、何をやってはいけないかを法的に規定し、それに接触しない限りは自由に報道できるようにするしかない。

報道の自由は世界共通の価値観なのか

──「報道の自由」は世界共通の価値観だろうか?イスラム教徒も含めての「共通の」価値観だろうか。

大きな質問だが、世界共通のルールと言ってよいと思う。ほんの100年前、女性には選挙権がなかったことを思い出して欲しい。同性同士が英国で結婚できるようになったのはほんの3年前だ。すばらしい前進ではないだろうか。報道の自由とは、人種、性別、住む場所の違いに関わらず、世界共通の価値だ。もちろん、それに対していろいろ文句を言う人がいることは知っているが。

世界共通の価値観となったからには、逆戻りはできないだろう。しかし、権利や義務の感覚は変わってきている。グローバル化した世界の中で、それぞれが異なる価値を持ち寄り、共通な部分を適用できるようにするべきかもしれない。

──フランスの報道の自由についての議論で、「伝統だから」という説明で終わってしまうのはどうか。

シャルリ・エブドのウェブサイト(画像をクリックすると同サイトにジャンプします)

自分は英国人だが、フランス国外からするとそのように思えるというのは理解できる。特にシャルリ・エブドのムハンマドの姿を描いた表紙にはさまざまな評価が出そうだ。

しかし、フランスでは人権や自由とは何かなど、大きなテーマを内省的に考えてゆく伝統がある。欧州社会の文化や歴史が国家の価値に影響する。今後、時間が経つ中で幅広い議論が国内でも深まるだろう。

──欧州ではキリスト教離れがあると聞く。宗教を心の大きなよりどころとする人にとっては生きくいことになるのだろうか。

そういうことはないだろうと思う。実は、アラブ地域でも宗教離れが興味深いテーマになりそうだ。チュニジアやエジプトでは世俗主義の動きが拡大している。同時にイスラム教の政党も存在する。宗教と政治の関係は、欧州よりもアラブ世界で切迫した問題になっている。こうした動きが最終的に欧州のイスラム教徒に影響を及ぼす可能性がある。報道の自由、イスラム教、過激主義、世俗主義について考えるとき、欧州の国境を越えてみる視点も必要だろう。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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