「転勤廃止」の浸透で陰湿リストラが復活する謎 「追い出し部屋」の復活、事業所閉鎖の増加も

拡大
縮小

なぜ、日本では会社に強力な人事権(会社が社員の採用・異動・昇進などを決定する権利)が認められているのでしょうか。これは、「会社に人事権を与えるから、社員を解雇しないでくださいよ」ということです。

日本では、正社員の解雇が厳しく制限されています。しかし、会社が多角的・広域的に事業展開すると、どうしても部門(や地域)ごとの好不調が出てきます。ここで、会社に人事権を認める代わりに、不調な部門で働く社員を解雇せず、好調な部門に転勤させて対処してもらおう、というわけです。

将来もし、業績が不安定な会社にも転勤廃止が広がったら、どうでしょうか。会社は不調な部門の社員を好調な部門へ異動させることができないので、不調な部門にたくさんの不要な社員が延々と居座ります。会社としては、何らかのリストラ策を講じる必要に迫られます。

陰湿なリストラが横行?

転勤廃止の時代に、会社はどういうリストラを行うのでしょうか。もちろん、現時点では不明ですが、懸念はあります。

最も懸念されるのは、「追い出し部屋」の復活です。かつて日本企業では、社員をほかの社員から隔離された環境に追いやり、草むしりのような単純作業に従事させて退職に追い込む「追い出し部屋」が横行していました。「追い出し部屋」はコンプライアンス重視の流れで下火になったとされますが、ほかに打ち手がなくなったら、復活するかもしれません。

もう1つ、事業所の閉鎖・移転というやり方があります。アメリカでは、転勤しない契約の一般社員を削減することを目的に事業所を閉鎖したり、遠隔地に移転するということが、よく行われます。日本でも近年、地方の事業所を閉鎖するケースが増えており、将来リストラを目的に事業所を閉鎖・移転するケースが出てくるかもしれません。

従業員満足を高めるうえで、転勤廃止は極めて重要。だからといって会社から完全に人事権を奪うと、陰湿なリストラが横行し、かえって社員に大きな被害が及ぶ可能性も高まります。どこでどうバランスを取るのか、「さらば転勤」の一言では済まされない難題が待ち構えているのです。

日沖 健 経営コンサルタント

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT