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メタトレンドとグローバル経営戦略 松尾 淳(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

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今後の課題として挙げられるのが「資源の枯渇」である。2025年までには水不足がさらに深刻化することが予想されているが、これは原材料供給の不安定化にもつながる。さらには、需要の増加も相まって、原材料の価格も高騰するため、資源確保に対する取り組みの重要性は今後も増していくだろう。

メタトレンド5:規制と政策

倫理面または環境や安全への配慮から、各国政府や世界機関は規制を強化している。規制に対応するため、事業プロセスの変更を余儀なくされるケースは珍しくないだろう。実際、米国では「政府による規制強化」の結果として、規制対応およびロビー活動への投資額は増加の一途をたどっている(図表6)。

また、イノベーションが進むにつれ、新たなテクノロジーと規制とのいたちごっこが起きていることも近年の傾向である。たとえば、3Dプリンタの発明は画期的なものだったが、拳銃などの危険物が複製されて初めて、規制の必要性が認識されるに至った。

政策面では、今後も多くの国で「財政難」が続くものと考えられることから、従来の公的サービスの一部を民間が担うような官民コラボレーションの重要性が高まるだろう。たとえば、シカゴ市はシカゴ・スカイウェイ(高速道路)の運営を民間企業に99年間リースすることで、約18億ドルの資金を調達している。

メタトレンド6:技術とイノベーション

次々と生み出される新たな技術やイノベーションは、不可能を可能にし、より少ない投資で大きな成果を得られる環境へとわれわれを導いた。

携帯端末が浸透したことによる「Always-on」社会の到来は、消費者の購買活動や情報サービスのあり方に大きな転換をもたらした。その活用方法も多様化し、モバイル学習やモバイルヘルス市場には大きな成長が見込まれている。

進化するテクノロジーは「集団の力」も生み出した。クラウドソーシングにより企業は不特定多数からアイディアを収集することが可能となり、消費者は共同消費により購買力を高めている。

3Dプリンタの発明やバイオテクノロジーの進展により、製品や医療の「カスタマイゼーション」が可能となった点も注目すべきイノベーションである。患者個々人の状況に応じて、カスタマイズされた治療・処置を行う個別化医療は、今後大きく成長が見込まれる分野である。また、個人の生活スタイルなどにとらわれない新たな学習システムが大きな成長を見せていることは、個別化サービスへのニーズをよく表している(図表7)。

遠隔モニタリングやウェアラブル端末に代表される「インテリジェントシステム」領域でも、リアルタイムの機器間通信(Machine to Machine)の実現などにより、次々と新たなイノベーションが創出されている。

また、クラウドコンピューティングの普及により、ビッグデータの蓄積、分析が可能となったことで、企業は事業機会を探るための強力なツールを手に入れた。一方で、サイバーセキュリティの被害も拡大傾向にあり、「ビッグデータの可能性と脅威」の双方を注意深く見守るべきだろう。

ゲノミクスやナノテクノロジーをはじめとする「先端領域」では、ゲノム解析費用が安価になったこともあり、さらなる発展が期待される。また、量子コンピュータの台頭は計算の高速化・精緻化に大きく寄与するものである。

グローバル経営戦略への示唆

今回紹介したメタトレンドには、成長機会に直結するようなものもあれば、障壁やリスクとして捉えられるものも存在する。しかし、後者の場合でも、そこに内在するビジネスチャンスは読み取れるだろう。重要なのは、それぞれのトレンドから得られる示唆を長期的なグローバル経営戦略に落とし込むことである。当然ながら、これらのメタトレンドは固定化されたものではなく、当局や業界団体の介入や新たなイノベーション、または時間の経過などによって変化しうるものである。そのため、企業がグローバル市場での持続的な成長をめざす上では、これらの大きなトレンドに常に注意を払うことが求められる。

本稿に続く各リポートでは、ここまで見てきたメタトレンドを踏まえ、インダストリースペシャリストが各業界のこれからについて考察していく。産業全体を俯瞰した上で、産業構造の将来像やそれに対応するために企業が採るべき戦略を提言しているものから、特定のトピックに的を絞り、その業界でいかにして勝ち残っていくのかについて言及したものまでさまざまある。これらのリポートが、日本の産業、そして企業の未来を考えるための一助になれば幸いである。

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