大人ですもの。「遊び」を楽しむ

ファッションデザイナー/コシノヒロコ

 その昔、シングルの腕前になると会社を潰すと言われたものでした。そこまで腕を上げるほどゴルフの練習に励んでいるということは、イコール業務をおろそかにしていること。要するに、仕事とゴルフを両立させることなど不可能だと思われていたのです。今やもう、こんなことを言う人もいなくなりました。むしろ、ゴルフがうまいほど仕事もできるという方程式さえ出来上がりそうなほどです。ゴルフだけでなくどんな趣味にせよ、優れた経営者ほど玄人はだしの腕前を持つという実例は、枚挙にいとまがありません。
 私たちアマチュアにとって、趣味のゴルフはしょせん遊び。遊びだけれど、人生における重みは仕事にも引けを取らないものだと思っています。仕事と趣味、どちらかの欠けた人生も味気ないもの。大切なのはバランスです。

私はゴルフと同じくらい長唄三味線に打ち込んでいて、昨年、一昨年はお師匠さんやお家元の襲名披露演奏会という大舞台で演奏する機会が相次ぎました。しばらくゴルフクラブを握らないと勘が鈍ってしまうのと同様に、お三味線も毎日弾いていないと指が思うように動かなくなります。周囲からはどこにそんな時間があるのかと驚かれますが、私にとっては仕事も大事、ゴルフも大事、お三味線も大事。加えて書画作品を描くことも、友人や家族との楽しい時間も大事。大切なものが欠けてしまえば、コシノヒロコがコシノヒロコでなくなってしまいます。

どんなことでも同じでしょうが、真剣に取り組もうと思ったらごまかしは利かない。日頃練習をさぼっていたら、いざというときに実力を発揮することなどできません。かといって、その道のプロになるわけでもないのに目を吊り上げて必死になる必要もないし、それで本業がおろそかになってしまっては元も子もありません。趣味に傾ける情熱のさじ加減にも、やはりバランス感覚が必要なのでしょうね。

これまで執筆させていただいたコラムの中で、何度となく「遊び」について触れました。若いときには、よそ見をせずにただひたすらストイックに一つの物事に打ち込む時間も必要です。そういう時期を経て、人間性や経験を身に付けた大人になったら、少し周りを見渡して、外の景色を楽しむ才能がないとつまらない。赤信号が青信号に変わるまで、あなたは横断歩道の向こうにある信号機をにらみつけて待ちますか? それともその間、満開の桜や色づいた銀杏並木、夕焼けに染まる空を眺めますか?
 人生における遊び=趣味と、仕事における遊び=余裕。どちらも私たちの守備範囲や許容量を広げてくれるものです。どんなにせわしない日常に追われようと、仕事に忙殺されようと、大人ですもの、遊びを手放すことなく日々を過ごしたいと思っています。

ファッションデザイナー/コシノヒロコ(こしの・ひろこ)
大阪・岸和田生まれ。文化服装学院在学中よりキャリアを重ね、東京、ローマ、上海、ソウルなどでコレクションを発表、2009年からは17年ぶりにパリコレクションも再開。近年は書画作品の展覧会も多数開催している。1997年第15回毎日ファッション大賞受賞、01年大阪芸術賞受賞。
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