ウクライナ「脱出最前線」、国境駅と列車の緊張感 ロシア・欧州間の国際列車は消滅、車両「没収」も

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「ヨーロピアン・タイムテーブル」の最新号を見ると、戦争前には運行されていたロシアとの国際列車が消えていることがわかる。例えば、キーウ―モスクワ間は2021年秋発行の9月号だと1日5往復が記載されているが、最新号では時刻データがすべて削除。ベラルーシ方面も同様で、ウクライナからベラルーシの首都・ミンスクに行く列車は国内区間のみで打ち切られている。

このほか、欧州連合(EU)各国による対ロシア・ベラルーシ制裁により、運行されなくなった列車が目立つ。バルト三国(エストニア・リトアニア・ラトビア)は、それぞれの首都からモスクワやサンクトペテルブルクといったロシアの大都市への直行列車を運行していたが、これらの列車はすべてロシアとの国境手前で打ち切られ、時刻表の当該部分は文字が抜けている。リガ(ラトビア)―ビリニュス(リトアニア)―ミンスク(ベラルーシ)を経てキーウを結んでいた国際列車は跡形もなく消えた。

また、バルト三国とポーランドに挟まれたバルト海沿いにあるロシア領の飛地、カリーニングラードとロシア本土間を結ぶ列車は、ベラルーシ領内では乗り降りできるものの、リトアニア領内での乗降を完全に禁止した「回廊列車」扱いとなっている。

ウクライナ「ロシア籍の車両は没収」

また、ウクライナ政府は3月15日付で「現在、ウクライナ領内にあるロシアの鉄道車両を接収する」と決めた。政府の説明では、ウクライナ領内に入っている鉄道車両は総数1万5000両(客車、貨車の区別は不明)に達するとしており、今後はこれをロシアに返さず、自国で使用するとの方針を固めた。一方、ロシア側に出て行っているウクライナ籍の車両は500両弱にとどまるという。

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もっとも、ウクライナ領だったクリミア半島は2014年以降、ロシアが実質的に支配している。半島内の鉄道はUZの一部だったが、2015年にロシア本土と半島との間に鉄道橋が繋がり、いまではRZD傘下の「クリミア鉄道」なる組織が半島内の列車運行を行っている。

今回のロシアによるウクライナ侵攻について、欧州各国は明確に「戦争犯罪」だと断罪している。停戦への動きがいまだ不透明な中、避難や物資輸送を支えるウクライナの鉄道が平穏な姿を取り戻すにはどのくらいの時間がかかるのだろうか。まずは、鉄道職員たちの努力に拍手を送りつつ、これ以上の犠牲者の増加がないことを祈るばかりだ。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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