研究で判明「心疾患」リスクが一気に増す"酒の量" 「お酒を飲む人」に知ってほしい不都合な新事実

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実際のリスクは糖尿病や肥満など、その人が抱える基礎疾患によっても変わってくる。アラガムの推定によると、典型的な中年の場合、飲酒しない人が冠動脈性心疾患を発症する確率が9%なのに対して、1日に1杯の飲酒を行う人は10.5%。これは決して高い確率ではないが、飲酒量がこれを上回るとリスクは急激に高まる。

アルコール摂取と心臓の健康状態に関する先行研究の多くは、長期にわたって対象者を追跡調査する観察研究だった。こうした研究では相関関係は見いだせても因果関係までは見いだせない、と研究者らは指摘する。

これに対し、メンデルランダム化解析を用いた今回の研究は因果関係をより明確に示唆するものであるため、その結論はこれまでよりも強いインパクトを与えることになりそうだ。

アラガムは「これからは適度な飲酒範囲を考え、患者にそれに沿った情報提供を行っていくことが課題となる」と述べ、こう続けた。「飲酒を選ぶなら、一定レベルを超えるとリスクが大幅に高まることを知っておく必要がある。そして節酒を選ぶ場合、週に7杯までの範囲にとどめれば、かなり大きな恩恵が受けられるということも」。

コロナ禍で増えた飲酒量が意味すること

冒頭の心臓専門医ヘイゼンは、今回の研究を見て、パンデミック期間中に増えた飲酒量の影響についていろいろと考えさせられたと話した。新型コロナ禍が始まって以降、人々の飲酒量が増えたことが各種研究で報告されている。直近の分析結果によると、アルコール関連死は2020年に25%も増加した。

パンデミック期間中には血圧も全体的に上昇した。ヘイゼンらがアメリカ全土のデータを検証したところ、血圧が平均3mmHg近くも上昇したことが明らかになった。「なぜそんなことが起こっているのか、私たちには見当もつかなかった」とヘイゼン。

パンデミック期間中の血圧上昇は、調査対象者の体重の変化で説明がつくものではなかった。血圧は50州と首都ワシントンDC(コロンビア特別区)のすべてで上昇しており、理由は謎だった。

今、ヘイゼンはこう考えるようになっている。「あの血圧上昇は飲酒量の増加によるものかもしれない」。

(執筆:Gina Kolata記者)
(C)2022 The New York Times Company

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