「女性向けポルノ」に見る男性の「独りよがり」 男性の自己満足が「セックスレス大国・日本」を生む?

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3ページ目(青文字部分)の分析をまとめると、以下のようになります。

・男性向けは「独りよがり」
・女性向けは、感情の高まりやスキンシップを大切にしている
・男性向けには描かれない「避妊の様子」が、女性向けではしっかり描かれている

「性差別」が放置されたままの日本社会

ろくでなし子さんの事件で、同様に逮捕された北原みのりさんは、女性向けアダルトショップを経営している方です。著書『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)の中で、顧客の女性たちを観察しながら、『an・an』の描き方がどう受け手の女性に消費されてきたかを年代別に追っており、すでに私のこうした分析の何歩も先を行っています。

『an・an』のDVDの穏やかな描写を見ていると、女性向けに比べて男性向けのものは、なんと愚かなものなのだろうと情けなく思えてきました。とにかく激しい性交渉が行われて、女性はそれに満足していることになっており……。

これは女性が「満足」しているのではなく、男性の「自己満足」が反転して描かれているだけなのです。そしてこんな誤解が、日々の性関係の中で解かれることなく放置されているのだとすれば、それこそ性差別が、その関係の中で放置されていることになるはずです。

「個人的なことは政治的なこと」。この議論がまだ決して色あせたものではないことを、現代日本のポルノグラフィーの男女差は語っています。その意味でも、女性向けポルノグラフィーという形で女性側の要求が立ち上がっていることは、やはり肯定的に考えるべき事象だと言えるでしょう。

目の前にいる女性が、満足した「ふり」をしているだけ、というのは、男性にとって「悪夢」なのかもしれません。しかしそれは、女性にとっては「すでに悪夢」である以上、男性は相手の声に耳を傾けること、そして女性は「ふり」の裏側にある思いを伝えること、ここからしか問題は解けていかないはずなのです。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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