「戦争」「崩壊」「混乱」 今年は為替が荒れる--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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他方、ドルは安全な通貨のように見える。その理由は、FRBの広範なドル相場指数によると、ドル相場は購買力から見て国際的に過去最低の水準まで落ち込んでいるからだ。よって、正常な購買力平価の均衡に回復するとすれば、ドルは若干の上昇傾向に向かうはずである。

もちろん、FRBによる財務省証券の大量購入がユーロの債務危機よりも大きなリスクであると信じている人もいる。ただし、専門家の大半は、債券購入による量的緩和を評価している。それが経済を流動性のわなから救い出し、債務負担をさらに悪化させかねない持続的なデフレに陥るのを阻止すると考えているからだ。

中国の人民元は、極めて政治的な為替制度によって維持されている。最終的に、経済の急成長は為替相場の大幅な上昇か、国内の物価水準(インフレ高進)、あるいはその両方に反映されなければならない。今年は、インフレ高進によって均衡が図られる年になりそうだ。

最後に、「為替相場の混乱」は三つのシナリオの中で最も可能性が高い。今年は、世界中の為替相場で予想しがたい大変動が起こるだろう。2000年半ばに、マクロ経済のグレートモデレーション(先進国における経済成長変動幅の縮小)の結果として為替相場は安定する、と主張されたが、今ではそんなことを主張する者はいない。変動相場制は驚くほどうまく機能したが、通貨は今年以降も、不安定かつ予測不可能であり続けるだろう。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。


(週刊東洋経済2011年1月29日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 写真と本文は関係ありません 撮影:尾形文繁
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