ジョブズ不在のアップル 問われ始める"引き際"

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ジョブズ不在のアップル 問われ始める“引き際”

今をときめくカリスマ経営者の突然すぎる宣言だった。キング牧師生誕記念の祝日だった1月17日、米アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)が全従業員宛ての電子メールを通じて、3度目の病気療養のために休養することを明らかにした。

公開されたメールには、「取締役会が病気療養を認めてくれたので、自分の健康問題に専念していく」「引き続きCEOを務めて重要な意思決定にはかかわるが、日常業務はCOOのティム・クックに任せた」「ティムと残りの幹部たちが2011年もすばらしい仕事をしてくれるだろう」などと記されているだけで、自身の病気の詳細については書かれていない。

メール文尾は、「療養の間、家族と私のプライバシーが尊重されることを強く望んでいる」と結ばれており、病状の詳細を公表するつもりはないようだ。

メールの内容から見て、病状は深刻な可能性も大きい。ジョブズ氏のメールには「できるかぎり早く戻ることを望んでいる」と書かれているだけで、復帰の時期が書かれていない。04年8~9月には膵臓がんの治療、09年1~6月の肝臓移植の際にはいずれも復帰時期を明らかにしていただけに、相当の長期にわたるかもしれない。

しかし、株式市場の反応は至って冷静だ。18日始値こそ328ドルと、前週末14日の終値から20ドル落ち込んだものの、同日に発表された10~12月期決算の営業利益が、前年同期比78%増になったことを受けて、19日始値は元の水準の348ドルへ回復した。

「過去2回の病気療養でもクックCOOが経営を続け、大きな混乱はなかった。クックCOOだけでなく、フィル・シラー上級社長など幹部の人材は厚く、ジョブズ不在は大きなインパクトにはならない」とアップル関係者は説明する。

アップルのロードマップに、今のところ不安はない。春には「アイパッド2」、夏には「アイフォーン5」「マックOS×ライオン」など今年も新製品が続々と登場する予定だ。クックCOOを先頭に立てた集団指導体制は、当面は盤石だろう。が、だからこそジョブズ氏はどのように身を引くのか、その引き際も問われ始めている。

(山田 俊浩 =週刊東洋経済2011年1月29日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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