デロイト

[特別対談]
すでにある正解を求めるのではなく、
ダイアローグから答えを導き出す 北川 智子(歴史学者)
× 日置 圭介(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

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フレキシビリティが足りない日本の組織

北川日置さんは経営コンサルタントの立場から、グローバル化に際して、日本人の特徴や傾向をどのようにご覧になっていますか。

日置これまで日本のなかで、日本人同士が一緒にいることが多かったことから生まれる同質感、信頼感のようなものは一種独特だと思います。

北川それは、すごく危険ですよね。

日置ある意味、変化やリスクが少ない環境で安心してしまっているところがあります。こうした感覚はグローバルでは通用しないでしょう。

北川ケータイやインターネットが普及した現代では、特に注意が必要です。なぜなら、たとえ海外にいようとも、日本語を話す者同士でつながることができるから。常に、周りが全部同質のもので固められてしまう。心地よいつながりも大事ですが、中に閉じこもるのはやめたほうがいい。つながりを外に広げるべきです。

日置このバンクーバーにも、日本企業で働いていて駐在している方がたくさんいらっしゃると思います。そうした方に駐在している間にお会いすると、物事をグローバルカンパニーと同じような感覚で話しているし、現地のナショナルスタッフとの付き合い方も含めて、グローバルカンパニーで働くビジネスパーソンと何ら変わりません。でもその方がいざ日本に戻ると、途端に「日本の人」に戻ってしまう。あれは怖いなと思うんですよ。モノの見方や考え方は駐在当時と変わっていないのかもしれませんが、表面に出てくる発言は「え? こんなに日本の人でしたっけ?」っていうぐらい変わっちゃう方がいます。

北川それは周囲の期待に応えようとしている面もあると思うんです。企業がそれを受け入れるフレキシビリティを持てていないのですね。だから駐在から戻ってきた方も、日本に帰ってきて「外国人みたいだ」って言われたくないから、日本らしいメンタリティや言動に“逆馴染み"してしまう。受け入れ側の環境はすごく重要だと思います。

日置そういう日本企業の環境について「おかしいな」と思う人もいるのですが、そういう人は日本企業に残らなくなる。

北川残らないというのも、その人の選択としてはいいと思います。でも企業としては、海外から帰ってきた人をきちんと取り込めるような心構えが必要です。

日置そうなんです。たとえば、外資に行っていろいろな経験をしてグローバルの何たるかもわかっている方たちが、日本企業に戻りたいと思うこともあります。年配になってくると引退も視野に入ってきて、日本企業に還元したいという気持ちにもなるのです。実際に今、そういった友人もたくさんいるのですが、そこにハードルがある。また、日本の素晴らしい会社から海外のライバル会社に流出してしまった人材も同じです。そうした人材はライバル会社のことを熟知しているから、もう1回取り込めばいいと思うのですが、1回出ていった人は受け入れないのです。

北川「許さん。帰って来るな」と。

日置そう、取り込まない。一度同族の集団から出た人は、裏切り者なんだという雰囲気がやっぱりまだまだあるんです。そうした閉塞感を変えようという人も一部にはいるのですが、やっぱり全体の大きな流れとしてはなかなか変わっていかない。

北川外資に勤めたり外国に駐在したりしている方が日本に戻ると馴染んでしまうのは、言葉の問題でもあると思います。環境もそうですが、話す言葉が変わると、考え方も変わってしまいますよね。私も自分で英語人格というものがあると思います。

日置はい、そういうものはありますね。

北川日本語だと「日置さん」ですけど、英語だと違和感なく“Hi, Keisuke"じゃないですか。私自身、英語では単刀直入で物事を言い切るスタンスになるのですが、日本語ではそうはなりません。だから人の考え方やスタンスも、言葉の影響を受けると思うのです。そういう意味で、組織に英語を取り入れるという選択肢はあっていいと思います。もちろん、社内の公用語を100%英語にする必要はないと思いますが、英語を使うと日本語で話したり考えたりするのとは違うアイディアが浮かぶと思います。言語を変えるということは、思考回路を変えることになるのですから、きっと違うことを思いつくと思うんですよ。

日置まだ一部ですが、ある大手企業ではマネジメント層がみんな駐在帰りの人に代わっていったという例もあります。それも中途半端な駐在帰りじゃなくて、20年間英国にいた人が戻ってきましたとか、そうなってくると、日本語的と英語的の両方の考え方でマネジメントできるんじゃないかなという期待はあります。

北川日本企業のフレキシビリティについては、女性の社会進出も会社に変化を促すのではないかと思っています。なぜかというと女性は、全員ではありませんが、多くの方が産休や育休を取るからです。そうすると組織も、彼女たちが戻ってくる際の受け入れ体制について、学習していく必要に迫られるでしょう。そこで得た知見が、同じように海外に3年行った人が帰ってくるとなったときに生きてくると思うのです。なので「女性を活躍させる場をつくろう」という視点ではなく、「フレキシビリティのある場をつくろう」という視点で組織を捉えることがこれからは重要だと思います。

日置女性の話で言うと、第2次安倍政権が日本再興戦略のなかで女性支援策を打ち出し、女性管理職の数値目標を示すなど企業の取り組みを促しています。これは、組織の問題でもあるのですが、女性自身の意識を変えていくのも結構大変だと思います。一旦固定化してしまった先入観を解きほぐすのは、ちょっと難しいと思っています。

北川そうですね。そういう意味では、もう少しロールモデルが必要だと思います。最近FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグが『LEANIN』(日本経済新聞出版社)という本を出していますが、彼女もやはり努力してきたんだということを知る意味では、いいロールモデルのシェアとして効果はあると思うんです。女性自身の意識改革という点で申し上げると、今大勢の人が急に意識を変えられなくてもいいと思います。まず何人かのいいロールモデルが生まれ、次世代、次々世代の人たちがそれを参考に活躍できる環境をつくることが重要だと思います。また、私個人としては、これまで日本の歴史において女性の記述があまりなされてこなかった問題がありますから、もっと女性がどのように歴史にかかわってきたか、そういったことを書いていくことも大事だと思います。

ラディカルな変化ではなく辛抱強く小さな変化を続ける

北川組織に変化を促す上で、1つ注意すべきことがあります。それは、英語の採用でも女性の登用にしても、ラディカルな変化を求めないことです。ある意味で日本人気質なのかもしれませんが、英語が必要だと聞くと「社内の公用語にしましょう」と極端な提案をしがちです。その反動として英語を使うと「日本企業の良さがなくなる」といった話になり、試みがそこで頓挫するのです。

日置それは本当によくあります。日本企業の方と話していると感じるのですが、急激な変化を求めます。「グローバルカンパニーがどういうマネジメントをしているのか教えてほしい」と言われて、ケーススタディとしてそれを紹介します。すると次に「どうやってそこまで行ったのか」という話になって、「ああ、それは無理だよね」とそこで話が終わる。グローバルカンパニーの現在地点と自分たちの現在地点のギャップを感じて、「そこまでは行けないや」とすぐ考えてしまう。でも、それでは何も変わらない。たとえばGEだって今はその地点にいるかもしれないけど、彼らもスタート地点から、何十年もの時間をかけて、そこにたどり着いたんです。

北川1年とか1秒で何かが変わるわけじゃないですからね。日本人は歴史からpatience(辛抱強さ)や、perseverance (あきらめない忍耐力)を学んでほしいと思います。

日置そういった意味では欧米の人たちは、辛抱強いですよ。一見すると、すごく短期的で、結果が出ないとすぐほかのことに移っちゃうように思われているかもしれないけど、実は彼らは、すごく地道に毎日の小さな変化をずっと紡いできて、そこまで来ている。逆に日本人って「コツコツやる」「辛抱強い」と自分たちは思っていますが、有事ではないノーマルな世界で、物事を少しずつ変えていくということは実は苦手なのかなと思います。強制的に従わされたら何とか順応できるけれど、自ら変化することには抵抗感がある。

グローバルカンパニーが20年、30年かけて今の姿になっていったのに、同じ時間をかけてそこまで行くつもりがあるかというと、それはどうかな、と逃げ腰になりがちです。そして「このままだと会社は潰れます」という話になると、途端にラディカルな変化を求めようとする。

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