仏紙襲撃は欧州に極右勢力台頭をもたらす 欧州に広がる「反イスラム」の波

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「欧州の多くの人々は最近、反イスラム的に傾いており、こうした動きが社会的な表舞台で目立つにようになってきている」と、ICSRのヌーマン氏は指摘する。「今後、こうした事件が増えれば、とうより、実際に増えると思うが、今後長きにわたって欧州内で二極化が進むことは避けられないだろう」。こうした動きによってもっとも被害を受けるのは、欧州に住むイスラム教徒たちである。「多くは欧州で普通の暮らしを営もうとしている、イスラム教徒たちだ」。

欧州において、体質的に非宗教的なフランスほどイスラム教との緊張感が高い国はない。同国は600万人のイスラム教徒抱え、アルジェリア、シリア、北部アフリカとの植民地時代の痛々しい歴史を引きずり、大胆な外交政策で知られる軍隊を擁している。この歴史はフランスが真摯な構造、社会的、経済改革をまったくできないのではないかとも思われていた政治的、経済的に不振な時期により深刻化した。

極右勢力の“追い風”に

無気力感や停滞ムードがフランス国中に広がっていた。シャルリエブトが襲撃されたのは、フランスで議論を巻き起こしているミシェル・ウエルベック氏の小説「Submission(降伏)」が出版された日でもあった。ウエルベック氏によるこの小説は、フランスにおけるイスラム教徒の勝利と、その後の社会における協調や新たなルールについて書いている。ウエルベック氏は、今回の襲撃で殺害されたシェルリエブトの著名や風刺画家や編集者たち同様、フランスにおける芸術的自由のシンボルなだけに、この本を出版したフラマリオン社が次の標的になることを恐れているという報道も出ている。

こうした空気をもっとも象徴しているのは、極右国民戦線党の党首、マリーヌ・ル・ペン氏の台頭だろう。彼女はイスラム教のフランス国内における拡大は、フランス的な価値観や独立国家としての存在を脅かすと徹底的にアピールし、今や世論調査で社会党をリードするようにすらなっている。

「今回の(シャルリエブドへの)襲撃は、国民戦線党にとってはまさに追い風だ」と、フランス財団法人ストラテジック・リサーチのカミーユ・グランド氏は話す。「ル・ペンは至る所でイスラム教は巨大な脅威であり、フランスはイラクでの軍事支援を行うべきではなく、自国の防衛にもっと力をいれるべきだと発言している。今回の件でより注目されるのは間違いない」。

(執筆:Steven Erlanger記者、Katrin Bennhold記者、取材協力:Rachel Donaido、Aurelien Breeden=パリ、Alison Smale=ベルリン)

(c) 2015 New York Times News Service

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