(第48回)旧秩序の破壊者が新しい世界を作る

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「現状の保護」はやめにしよう

旧勢力を破壊するために必要なのは、彼らを保護しないことだ。雇用調整助成金やエコポイントなどは、現状維持のための政策であることが明白だが、一見してそう見えないものであっても、実は現状維持のためのものであることが多い。TPP(環太平洋経済連携協定)は、その代表である。一般には貿易自由化のためのものと理解されているが、実態は経済ブロック化計画である。TPPによって利益を受けるのは従来型の輸出産業であり、新しい産業が生まれるわけではない。

法人税減税もそうである。新しく誕生する企業は利益が出ないのが普通だから、法人税減税から利益を受けることはできない。これは既存企業の負担を軽減するだけだ。

もし法人税を減税するのなら、かつての中国のように外資に対してだけ行うべきだ。また、企業の公的負担を軽減したいのなら、社会保障制度を改革して社会保険料の事業主負担の軽減を図るべきだ。事業主負担は、法人税とは違って利益のない企業にもかかるので、誕生直後の企業には重荷になっている。

官僚のすべてが悪であるわけではないが、天下り確保の方策には反対すべきだ。経済官庁が外資に反対するかなり大きな理由が、ここにある。また、地方公共団体によるリサーチパーク構想なども、天下り先確保のためであることが多い。

政治が現状維持に傾くバイアスを持つのは、やむをえない面がある。現在支配的な産業や企業は政治に強い圧力を加えられる半面で、いまだ存在しない産業は政治的発言力を持たないからだ。このバイアスを打破するのは、世論でしかありえない。ここでもジャーナリズムが果たすべき役割が大きい。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年1月22日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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