コロナ恐慌 最悪のシナリオ 緊急特集

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このうち、CTAは動きが速く、すでに株売却を実行済みと考えられるが、長期運用主体のリスクパリティーファンドや変額年金はまだだ。3月9日の暴落でVIXは、リーマンショック以来となる62台まで一時跳ね上がった。高水準が続けば、遠からずリスクパリティー系は株売りを本格化させるだろう。

米企業債務の行方

もっとも現在のように株価の不調が続くだけなら、まだいい。次に顕在化しかねないリスクは、企業債務だ。FRBによると、金融機関を除く米企業の債務残高は19年9月時点で15.7兆ドル(約1600兆円)に達し、対GDP(国内総生産)比でも過去最高の74%となっている。

金融市場の動揺とともに、社債スプレッド(米国債に対する上乗せ金利)は低水準ながら若干拡大(社債価格は下落)していた。それが、3月9日の原油急落で米シェール関連企業を中心に低格付け社債が一段と売り込まれることになった。

注意すべきは、企業債務の姿がリーマンショック以前とは様変わりしていることだ。規制が強化された銀行の貸し出しに代わり、企業債務拡大の主役になったのは低格付け社債に加え、レバレッジドローンと呼ばれる非投資適格企業向けの貸出債権だ。

これらの多くは、投信やETF(上場投資信託)、CLO(レバレッジドローンを担保にした証券)、私募投信に組み込まれた形で市場に流通する。そして、その金融商品に資金を投入しているのは個人投資家や企業年金基金、生命保険、非大手銀行の一部という構図だ。

つまり、現代の取り付け騒ぎは、現金を求めて銀行店舗に行列を作るのではなく、スマートフォン画面のタップで投信などを解約することで起きるのだ。

米国では低格付け社債に投資するETFからの資金流出が始まっている。投信などの解約が加速すれば、原資産である低格付け社債やレバレッジドローンの換金投げ売りで、投信やETFと連鎖した価格下落が起きかねない。パニック的な取り付けが起きれば、行き着く先は、企業の資金繰り危機や運用会社の破綻だ。それが、さらに金融機関の決済システム不全へ波及してシステミックな危機を引き起こす、というのが想定される最悪の事態だ。

3月9日の暴落の最中、FRBは、レポ取引など短期金融市場に供給する資金の規模を引き上げると発表した。これも金融危機の芽に対処するというサインだ。「米国のモーゲージREIT(不動産投資信託)や日本の金融機関の一部は最大10倍程度のレバレッジをかけて、短期調達資金を元手にモーゲージ債など長期債を買う投資を拡大してきた」と村木氏は指摘する。

このレバレッジ投資拡大に加え、FRBがバランスシート縮小で資金供給を抑制したこともあり、昨秋、短期金融市場の金利は急騰した。直後、FRBは短期市場への資金供給拡大へと転じ、事なきを得たが、金融不安の中でドル調達コストが再び急騰する局面になれば、レバレッジ投資は逆ザヤになって、ポジション解消による急激な資産売却を起こしかねない。

このレバレッジ投資、さらに先述のCLOでは、日本の農林中央金庫やゆうちょ銀行などが一定規模の投資を行っているといわれる。全般にいえるのは、規制が強化されてきた米銀行のリスクは現状では低く、投信やETF、モーゲージREITなどシャドーバンキング(影の銀行)のリスクが巨大であることだ。金融危機の行方は、これらの金融のひずみを解消し軟着陸できるかにかかっている。

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