超マクロ展望 世界経済の真実 水野和夫、萱野稔人著 ~モデルなき日本に至る構造的必然論

超マクロ展望 世界経済の真実 水野和夫、萱野稔人著 ~モデルなき日本に至る構造的必然論

評者 中沢孝夫 福井県立大学特任教授

 日本が直面している課題は「世界経済が新たな時代へとソフトランディングするための重要な先行事例」であるとする本書は、「最近読んだ本でね」と切り出し、語り合う相手がいるビジネスマンにお薦めの、知的な刺激に満ちた1冊である。

著者たちは世界史における覇権国の交代について指摘する。アメリカの前はイギリス、その前はオランダ、さらにその前はイタリア・ジェノバ。こうしたヘゲモニーの変化(移転)の背景について、「どの国のヘゲモニーにおいてもまず実物経済のもとで、利潤率が上がって、それがつぎに低下することで、金融化というか金融拡大の局面」になり「その金融拡大の局面で、ある種のバブルが起こる」。そして「その国のヘゲモニーも終わりに向かう」と説明する。

しかし今回のアメリカ発の金融危機はヘゲモニーの交代ではなく、「大きな構造転換があるかもしれません」と付け加える。肝心なところなので断言してほしいのだが、そうはいかないようである。

明治初期の3000万人台から1960年代には1億人を超える人口の増加を経験し、戦後、経済成長のスピードも一番速かったのが日本である。そして「短期間で高い資本蓄積を成し遂げたがゆえに、利回りが下がるのも速い」日本は、「世界にさきがけて低成長の課題に直面した」。それゆえ「日本が先頭を走っている以上、ほかの国はモデルにならない」という。

現在の日本の長い停滞に関して、政策責任を問う声から構造的必然論へと世論は転換しつつあるが、本書もその1冊。ただ、歴史的なバブルの崩壊を論じながらアメリカの大恐慌への言及がないことや、ステレオタイプな生産現場のグローバル化の見解など、評者には知的刺激の意味で若干の不満が残った。

みずの・かずお
埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授。1953年生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経る。

かやの・としひと
津田塾大学国際関係学科准教授。1970年生まれ。早稲田大学文学部卒業。仏パリ第10大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。

集英社新書 756円 238ページ

  

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