「長嶋茂雄」はやっぱり永久に不滅です 野球の五輪復活に必要な視点

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東京五輪でコンパニオンをしていた亜希子夫人(故人)と知り合ったのも、そういう思いから報知新聞社の五輪観戦記を引き受けたことがきっかけだった。また監督を退任して浪人生活を送った時代も、野球に限らず陸上競技や水泳、冬季種目のスケートやジャンプまたバスケとやサッカーだけではなく五輪競技ではないがアメリカンフットボールなどの団体競技にも目を注ぎ、造詣を深めてきた。

そういう意味では長嶋さんはスポーツマニアであり、その最高の舞台であるオリンピックマニアでもあったわけだ。

それだけに野球とソフトボールが五輪の正式種目から外れたことは憂慮してきた。そういう中で飛び込んできた今回の復帰の可能性には強い関心を抱いている。

「もう野球が(正式種目から)外れて何年になるのかな? 6年? 可能性は広がってきたけど、まだまだ安心はできない。まだまだだな。でも楽しみは出てきたね」

筆者がある雑誌のインタビューで長嶋さんに伺うと、あくまで慎重な言葉は崩さなかったが、それでもその表情には喜び、期待感があふれていたようにも見えた。

長嶋茂雄に寄せる「期待」

もし、野球とソフトボールの五輪復帰が実現したあかつきには、何とか長嶋さんに一役買っていただくようなことはできないのか、という思いに駆られる。もはや現場に立つことは難しいだろうが、野球の選手団長なら可能だろう。それこそ長嶋さんのこれまでの五輪とスポーツに対する関わりを考えたら、他競技を含めた日本の選手団全体に関わることもできると思う。

ましてや今はオリンピックとパラリンピックが一体化している。健常者も障害者も区別なくスポーツを通じて、自らの創造性を高め、国際交流を計っていく場だ。そういう意味では脳梗塞に倒れてから、厳しいリハビリを乗り越え、今もまだ右手が不自由ながら精力的に野球とスポーツ振興のために動き回っている長嶋さんは、両大会のシンボル的な存在として、まさにうってつけではないかとも思うのだ。

「君たちは野球の伝道師になれ」

03年のアテネ五輪アジア最終予選を勝ち抜いた後の挨拶で、長嶋さんは選手たちにこう語りかけている。

ただ勝つことだけが目的ではない。

日の丸を背負って五輪の舞台に立つからには、野球の素晴らしさを市井の人々に伝えていく役割を担って欲しい。そんな願いを込めた言葉だった。

そして思いは野球だけではない。スポーツの伝道師として、これほどふさわしい人はいないはずである。

鷲田 康 スポーツジャーナリスト

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わしだ・やすし / Washida Yasushi

1957年、埼玉県生まれ。慶応義塾大学卒業後、報知新聞社に入社。1991年オフから巨人担当キャップとして長嶋監督誕生、松井秀喜選手の入団などを取材。その後、プロ野球遊軍などで約10年間、巨人を中心に野球取材を担当した。2003年に報知新聞社を退社。フリーのスポーツジャーナリストとして日米のプロ野球やアテネ、北京両五輪、WBCなど日本代表チームを取材、執筆活動を続けている。現在は週刊文春で「野球の言葉学」、ナンバーウエブ「プロ野球亭日乗」、サンケイスポーツ(東京版)「球界インサイドリポート」などを連載。主な著書に「長嶋茂雄最後の日」「10・8 巨人VS中日 史上最高の決戦」ホームラン術」「WBC戦記(共著)」(いずれも文藝春秋社)「松井秀喜の言葉」(廣済堂出版社)などがある。

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