安倍政権、このままでは「ねずみ講財政」だ 財政健全化に早くも逃げ腰?

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では、どうして基礎的財政収支が赤字なのに、公債残高対GDP比が図のように低下するのか。それは、前述した名目経済成長率と、「公債金利マイナスPB対GDP比の2分の1」の大小関係が、決め手となっている。

内閣府試算の「経済再生ケース」では、2010年代後半において、名目経済成長率は、前述のように3%台後半である。他方、(加重平均の)公債金利は2%台、PB対GDP比はマイナス2%台である。要するに、かろうじて名目経済成長率が上回るというのが、内閣府の試算結果である。だから、厳しい歳出削減努力も、消費税率を10%超にする増税もしなくても、基礎的財政収支は依然赤字なのに、公債残高対GDP比は低下する結果となっている。

公債残高対GDP比さえ下がれば、基礎的財政収支は黒字化しなくてよい、とまでは言っていないようだが、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ、と言いたいようである。これでは、第3次内閣が始まる前から、財政健全化の努力を手抜きしていると疑われかねない。

「公債残高対GDP比重視」の3つの問題点

「名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ」という考え方には、3つの重大な問題がある。

第1は、この路線は、「ねずみ講財政」である。たとえて言えばこうである。親が浪費して、そのつけを借金として子や孫につけ回したとする。子や孫は、それを返済できるだけの所得がないと破産する。

しかし、子や孫の方が親より所得が増えると見込まれるので、返済負担がより軽くなる(公債残高対GDP比が下がることに対応)。しかも、金利負担もあるのだが、借金の利子率より所得の増加率が高いと、これにも耐えられる。

親から子や孫へもそうなら、子や孫もまたその子や孫に同様にして借金をつけ回せばよい。まさにこれは、「ねずみ講」である。名目経済成長率さえ高くすれば、という意味は、まさに「ねずみ講」式に借金をつけ回しても破産しないから大丈夫(=財政健全化できる)、と言っているだけにすぎないのである。

「ねずみ講財政」の重大な問題は、財政支出の便益を受けた親世代が、負担から逃れて、子や孫の世代に負担をつけ回すことである。いまや、国も地方自治体も、公共投資のためではなく、社会保障費をはじめとする経常的経費を賄うために借金を増やしている状態だ。だから、親世代で返済負担を負うと重いから、子孫の所得を増やすべく経済成長に力を入れれば、借金をつけ回しても子孫のためになる、というのは偽善である。子や孫は、借金の元となった財政支出の便益は受けていないのだから。

「ねずみ講財政」は、世代間の受益と負担の格差を拡大させる点で、重大な問題である。

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