電池技術者“争奪戦” 世界が獲得に血眼!

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 サーチファーム・ジャパンによれば、日本企業の技術者がヘッドハントされて別の日本企業に移る場合、どんなに優秀でも給与水準はほとんど変わらないという。一方で、海外企業に移ったら1000万円の技術者の年収相場はざっと1・5倍にハネ上がる。日本の硬直的な給与制度が、この給与格差を生じさせている。年齢や役職に従って横並びで給与を決める既存の仕組みでは、途中から入った社員だけ高くすることはできない。しかし「海外企業は違う。『重要な技術を持つ人』になら特別待遇の給与を与えるのは普通だ」(同社のヘッドハンター、早川修平氏)。

給与制度以外の問題もあるだろう。前出のエナデルでは、ベンチャーゆえに高額の給与ではないが、「みんな日本企業では自分のキャリアアップをイメージできない、と言って当社にやってくる」(太田CTO)。事実、日本の電池メーカー技術者の人事は一般的にローテーションが少なく、仕事の範囲も限定的。人によっては「電解液一筋で何十年の場合もある」(国内電池メーカー関係者)。他方、エナデルは「一人で材料開発から製造まで広く携わる。学会にもどんどん行かせる」(太田CTO)。裁量が与えられれば、技術者が感じる達成感も大きくなる。

現時点で、日本の技術者が海外の電池企業に続々と移動する動きは起きていないものの、「優秀な人を適切に評価するシステムになってない現状では、蓄電立国どころか技術者の日本離れが加速してしまう」と雨堤氏は警鐘を鳴らす。

技術流出を何より恐れる日本メーカーは「メールアドレスを3カ月ごとに変える」「外部からの電話は自動シャットダウンする」といった防御壁の構築には腐心する。しかし、根本的な解決策はそこではない。

くしくも、日本の電池産業は半導体や液晶で見た悪夢を再現する可能性が高まってきた。10年のリチウムイオン電池世界シェアは、過去10年にわたって首位だった三洋電機にサムスンSDIが並び、歴史上初めて、海外の企業が実質的な首位に立ったのである(下図)。蓄電立国の根幹が人材にあるのならば、日本企業は給与面や待遇面での働きがいを向上させることが不可欠である。

(西澤佑介 =週刊東洋経済2011年1月15日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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