あいおいニッセイ同和、英社買収の裏事情 欧州で先進分野に参入も、国内での立場は微妙

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あくまでも、この買収の狙いは英国、次いで欧州の自動車保険市場でのポジションの強化にある。あいおいニッセイ同和は海外保険事業を現状の500億円から倍増させる中期計画を立てている。その戦略の柱は自動車保険販売の拡大だ。トヨタとの連携という強みはもちろん最大限生かすが、それだけでは力不足というのが同社の見立てだ。

欧州では本格普及も、日本では大手が及び腰?

なぜか。欧州特有の事情がある。欧州では、世界に先駆けてテレマティクス保険の急速な拡大が予想されているからだ。すでにイタリア、英国では普及が進んでいるが、15年10月には欧州域内で、自動車に「eCall」(汎欧州自動緊急通報システム)という通信端末の搭載が義務づけられる。事故があった際に、場所や情報を自動通報する仕組みだ。

これは必然的にテレマティックス保険のインフラとなる。英国では20年にテレマティクス保険が市場シェア40%になり、イタリアやフランス、ドイツなども軒並み20~30%台にまでシェアが拡大するという見方が出ている。

テレマティクス保険において、いまだに実験段階を抜けられない日本のノウハウをもとにしていては、欧州の急激な市場変化にはついて行けず、振り落とされる危険性がある。そこで、「時間を買う」という点で、この有望な玉が売りに出されたのは渡りに船だったといえよう。

もちろんテレマティックスを活用した盗難車の追跡ノウハウや運転特性と事故率の相関関係に関するデータなど、この買収は日本のテレマティクス保険の開発にも役立つであろうが、ことはそう単純ではない。最大のネックは、テレマティクス保険を日本で普及させるメリットが、日本の大手損保にあるのかどうか、ということだ。

ソニー損保のような新興勢力であれば、運転特性に応じて割引メリットを受ける新規顧客を開拓することは、大手損保から顧客を奪うことになり、そのまま会社の成長につながる。だが、大手損保の場合は、テレマティクス保険によって、保険料が逆にアップするというしわ寄せを受ける既存顧客もいて、反発を受けかねない。今回の買収は実は、悩ましさを同時に秘めた買収といえる。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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