日本郵船、次期社長が示した勝ち残りの覚悟 ”理想の社長像”に込めた重要な意味

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しかし予断は許さない。天然資源や穀物を運搬するバラ積み船の総合的な運賃水準を示すバルチック海運指数は、需要期に入った今秋以降は前年水準を割り込み、一時は前年同期の半分以下に落ち込んでいる。最大の需要先である中国経済の成長鈍化懸念と、海運市況や船価が底に達したと見た投機資金が、造船市場に流入したことによる船腹供給圧力などが響き、需給バランスは崩れたままだ。今回のトップ人事も、当初は2014年に実施されるはずだったところ、自動車船の価格カルテルが発覚したことで、延期されたと見る向きもある。

「やめる決断が必要になっている」

内藤次期社長は理想の社長像に「やめる決断ができること」を挙げた

内藤氏は「リーマンショック前は、船を持っていれば儲かるというバブルが生じていた」と振り返る。今後については、「ライトアセット化を徹底しつつ、技術力が求められる自動車船やLNG運搬船、海洋資源事業で成長を図る。ただ、差別化が難しい航空貨物やコンテナ船事業を、どう再建していくかという課題は残る」と語った。

確かにLNG運搬船は現状、世界で運航されている350隻程度のうち、日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社でほぼ半分を占める先行分野だ。極低温運搬が必要になるなど、技術的な参入障壁が高く、長期契約が基本で収益の安定化も期待できる。

ただ、内藤氏が指摘するように「海運業界は国際競争にさらされ、力のある企業しか生き残れない」。内藤氏は同時に理想の社長像として「フェアであること、先見性があること」とともに、「やめる決断ができること」を挙げる。そして、「従来は、先輩が始めた事業だから育てなければという伝統があった。が、一般論だが、変化のスピードが速くなり、やめる決断が必要になっているとも感じる」とも漏らした。

おそらく日本の海運業界は、一段の再編が必要になる。「次の時代をつくる」、次期社長の覚悟が問われる時は、遠からず訪れるのかもしれない。

(撮影:今井康一)

岡本 享 東洋経済 記者

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おかもと とおる / Tohru Okamoto

一橋大学社会学部卒。機械、電機、保険、海運業界などのほかマーケットを担当。2013~2015年『会社四季報プロ500』編集長、2016年「決定版 人工知能超入門」編集長、2018~2019年『会社四季報』編集長。大学時代に留学したブラジル再訪の機会をうかがう。

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