富士フイルムが攻めの経営で体質一新、ドル箱失墜からの復活[下]《新「本業」で稼ぐ》

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 富山化学に対する業界の評価は高い。インフルエンザ薬「T−705」(国内で申請準備中)や、アルツハイマー薬(米国で治験実施中)と有望な新薬候補群を持つ、「期待の星」(医療関係者)なのだ。特にT−705は既存薬と異なるメカニズムを持ち、強毒性鳥インフルに応用できる可能性もある。富山化学買収から10年後の18年度時点で「新薬で3000億円」(古森社長)という目標は、T−705が上市されるだけで射程圏に入ってくる。

神奈川県足柄上郡。06年竣工の富士フイルム先進研究所で、5~10年先の事業化を目指すプロジェクトの“種”が育ちつつある。「技術が融合しないかぎり世の中に問えるような新製品は出てこない」(井上伸昭・常務執行役員R&D統括本部長)と、国内各所に散らばっていた技術を集約したのが先進研。意図的に壁を取り払った大空間で、研究者が日夜、開発に取り組む。

コラーゲンを包み込む技術を生かした化粧品「アスタリフト」をはじめ、いくつかの製品が先進研から生まれている。直近で注目度が高いのは、人間が触れると発生する電気的な変化を検出するための、「透明導電性フィルム」。軽量で屈曲性に優れ、タッチパネルや電子ペーパーへの活用が期待できる。

写真フィルムがそうであったように、アプリケーション(製品)そのものには衰退の可能性がある。だが技術の進化に限界はない。古森社長も、「富士フイルムの強さは技術力であり、1万人の研究者たちである」と言う。ものづくりを重視するメーカーは、構造的な不況を憂う前に何をすべきなのか。富士フイルムの事業構造大転換は、一つの示唆を与えている。

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(前野裕香 =週刊東洋経済2010年12月18日号 撮影:今井康一)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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