スカイマーク米子撤退が映す地方空港の煩悶 格安エアラインが定着しないのはなぜか

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米子空港は鳥取と島根の県境近くに位置(写真:maru/Imasia)

実際にスカイマークの米子撤退について、鳥取県や隣接する島根県在住の人からは惜しむ声が多い。筆者がレギュラー出演している在京局のラジオ番組では12月中旬、この話題を取り上げた際に、ネット局で放送されていた鳥取県、島根県のリスナーからのメールが相次いだ。これまでになかった反応だった。

その多くが現在の経営状況での撤退は仕方がないと理解しつつも、関東方面(羽田・成田)や関西方面(神戸)へは安い運賃で移動できなくなることを残念がっていた。米子の場合は鳥取空港や出雲空港、萩・岩見空港といった周辺空港にジェットスター・ジャパンやバニラエア、ピーチアビエーション、春秋航空日本といったLCC(格安航空会社)が就航しておらず、大手航空会社以外の代替手段がないというのが痛い。

石垣や宮古路線は継続

スカイマークは米子から撤退する一方、同じく地方空港の石垣空港や宮古空港発着の路線は引き続き就航を継続する。実はこれらの空港にとってスカイマークが参入した意義は小さくない。那覇~石垣、那覇~宮古の運賃が大きく下がり、今年秋の時点では片道4000~5000円が割引運賃の相場となっている。この結果、沖縄本島がある那覇へ気軽に出かけられるようになり、交流も盛んになったという。

ただ、これらの路線も一時は大手航空会社が追随して両路線の運賃を下げたことで、スカイマークの搭乗率が低下して一時運休に追い込まれてしまったことがある。このとき、運賃水準は再び上昇。島民が那覇へ出にくくなってしまった。

スカイマークが復活した際には民間レベルでスカイマークを応援する体制を整えた。今年8月には石垣島の民間企業を中心に416社が加盟する協同組合が合同で「スカイマーク応援宣言」を表明。地元を中心に積極的にスカイマークを利用する体制を整え、実際に地元利用者が増えたことも引き留めに繋がった。

残念ながら現在の日本の地方空港は、「ドル箱」と呼ばれる羽田線・伊丹線以外で収益を上げるのは難しい。一方で、運賃の安いLCCやスカイマークのような低価格運賃を打ち出す航空会社を誘致し、就航することで便数の増加=空港の活性化を望んでいる面はある。

LCCは現状、多くの乗客が見込める主要都市間の路線が中心で、米子のような地方空港の就航はなかなか手を出してこない。航空会社・行政だけではなく、地域住民や地元企業も一体となって支えない限り、新興エアラインやLCCを地方空港に呼び込み、定着させることは並大抵ではない。就航までは行政の努力がメインになるが、就航後は地域住民が積極的に航空会社を利用しなければすぐに撤退に追い込まれてしまう。スカイマークの米子撤退は、地方空港が置かれた状況の難しさを象徴している。

鳥海 高太朗 航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

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とりうみ こうたろう / Kotaro Toriumi

1978年千葉県生まれ。成城大学経済学部経営学科卒。食品会社、コンサルタント、城西国際大学観光学部助手を経て現職。専門は航空会社のマーケティング戦略。利用者・専門家の双方の視点から各社メディアを通じて情報発信をしている。

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