(第51回)健康の計を考える(その1)

山崎光夫

 一年の計は元旦にありといわれ、元日から新しい日記や手帳を開く向きは多いと思われる。
 手にする手帳も職業や趣味によって十人十色。市販の手帳も数多く出ているが、たとえば、銀行員は銀行手帳を持ち、天文ファンは天文手帳を、歴史好きは歴史手帳、釣り愛好家は潮汐(ちょうせき)手帳などを持っているらしい。

 日本医師会では、医師会の会員向けに『医師日記』を作っている。小型鉛筆付きの手のひら大の手帳で、表紙はバックスキン製。さらに、手帳の3辺は金色の豪華版だ。
 手帳の冒頭に、「医の倫理綱領」が載っている。
「医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである」
 崇高な理念を謳っている。ぜひ実行していただきたいものだ。

 医師会ならではと思えるのは、手帳の末尾のほうに掲載された、「人口・医療施設・医師数」の統計。日本全国と各都道府県の人口数、病院と診療所の医療施設数が見開き2ページに一覧表となっている。
 医師数は平成20年12月31日現在、28万6699人。人口10万対医師数は、全国平均、224.5人である。
 人口比で医師の数が最も多いのは、徳島県で、299.4人。次いで、東京都の296.6人。3位は、京都府の295.0人。
 最も少ないのは、埼玉県の146.1人。千葉県、神奈川県も全国平均をはるかに下まわり、統計上、東京都を除く首都圏は意外にも、"医療過疎地域"になる。

 手帳の左ページは、月曜から日曜までの一週間分が記載され、各々の日の朝7時から夜10時まで、15時間にわたり時刻が1時間ごとに表示されている。ビジネス手帳と変わりがない。ただなぜか、毎日、大安や仏滅などの六曜が曜日と一緒に入っている。右ページは白紙の「MEMO」欄である。
 手帳の最終ページは、住所、氏名、電話番号、血液型などを記入する欄がある。ここに、「医籍登録」「麻薬管理施用者免許証」「日医認定産業医証」などの番号欄があるあたりも医師の手帳らしいといえる。

 しかし、私は取材でこれまで多くの医者に会ってきたが、この『医師日記』を使用している医者に出会った例がない。日頃、使っているなら、背広や白衣のポケットから取り出す場面に遭遇してもよさそうだが、そうした経験がない。一体、どんな医師が重宝して使っているのだろうかとも思う。

 すると、このたび、『医師日記』を使っている高齢の内科医に初めて出会った。
 この医師は毎日の起床時間、就寝時間、体重、排便、排尿回数、朝晩の血圧を記録している。もっぱら自分の健康管理に使用していて、"医師体調日記"といえそうだ。仕事のための手帳ではない。まして患者のために使っているのでもなかった。

 年の初め、一年の計で庶民は無病息災を祈る。先の内科医のように手帳を使って健康を日々、チェックしてみてはいかがだろうか。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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