「僕たちは死ぬまでレガシィを磨き続ける」 吉永社長が語る富士重工業の生きる道(上)

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”欠点”を特徴にしてしまう

よしなが・やすゆき●1954年生まれ。77年富士重工業入社。2007年執行役員スバル国内営業本部長。09年取締役兼専務執行役員を経て、11年6月より現職

――ではその個性をどのように守っていくのでしょうか。

当社ぐらいの規模の会社は、良かれ悪しかれ皆同じ戦略を取ってくるはず。「走りの楽しさ」なんて、全員言うに決まっている。となると、スバルもマツダも言っていることが同じだという話に必ずなる。

その中でも利益率を維持できるのか。そこからが自分たちの戦い。”旗”の立て方は、根源的な議論を経たものなのか。実態が伴っていないと勝てない。そこでわれわれが打ち出したのが「安心と愉しさ」。ここで突き抜けようとした。

一度、「レガシィ」を出したら、ずっと「レガシィ、レガシィ…」と言い続ける。スバルはそんな会社です。ある意味では変化に対して弱い。世の中の変化に合わせて刷新していく力が弱い。昔は欠点と言われたところで、社内でもみんなそう思っていた。でも、逆に特徴にしてしまえば欠点にはならないのではないか。1つの商品を出したら、それを磨きに磨く。「僕たちは死ぬまでずっとレガシィを磨き続けます」って、悪くないでしょう。

自動車メーカーの機軸がもっとあっていい

14年夏に米国で先行発売したレガシィの「アウトバック」

亡くなった米アップルのスティーブ・ジョブズは、商品の数を増やしていないですよね。数を絞り込み、その商品がものすごくよく考えられていれば爆発的に売れる。スバルも商品が少ないからこそ作り込んでいるということを本当にやれば良いじゃないかと。「考え抜いた『アウトバック』(新型SUV)です」というメッセージに、米国でも反応してもらっている。

――スバルが個性を磨くということは、ドイツ車のようなプレミアムブランドになるというわけでもないような気がします。

自動車のブランドには、プレミアムとそうじゃないものくらいしかない。たとえば、ファッションのブランドというのはたくさんの機軸があって、オートクチュールの高級品からスポーツ衣料までたくさんある。

スバルはSUV(スポーツ多目的車)や4輪駆動に特徴がある。自動車にも、たとえばもっと「スポーティー」なブランドがあって良いはず。あるいは、「良い道具」のような機能的な価値を訴求するブランドでもいい。そこでは安全性能も重要。米国の調査機関で最高の評価もいただいている。結局米国での支持の根っこにあるのは、安全性能の高さなんだと思う。

――現在の自動車メーカーで独自の立ち位置を築いているブランドは?

海外でいえば「ジープ」がそうでしょう。米国ですごく売れている。プレミアムというわけではなく、ジープはジープという独自のブランドを確立しているのではないでしょうか。

(撮影:今井康一)

「週刊東洋経済」2014年12月13日号<8日発売>「この人に聞く」に加筆)

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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