過激なサイバー攻撃に出た北朝鮮の国内事情 北朝鮮のテロ示唆でソニー映画が公開中止

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テロの示唆で上映中止に追い込まれた「ザ・インタビュー」の看板(写真:AP/アフロ)

たかが映画、されど映画なのか。北朝鮮が、一編の映画にここまで反発するのはなぜだろうか。

ソニーの米映画子会社であるソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)に対するサイバー攻撃について、米連邦捜査局(FBI)が「北朝鮮当局の組織的な犯行」と結論づけたことに、北朝鮮は猛反発している。SPEが制作したコメディ映画「ザ・インタビュー」は、北朝鮮の最高指導者暗殺を扱った内容であり、北朝鮮は2014年秋ごろからこの映画の封切りに反発を繰り返していた。

SPEは11月にサイバー攻撃を受け、社内の機密情報や従業員の個人情報が盗まれた。さらにハッカーがネット上に、「01年9月11日を忘れするな」「世界は恐怖に包まれるだろう」というメッセージを掲載。同映画を上映する映画館にテロを示唆し、ついに「ザ・インタビュー」は公開中止に追い込まれた。

テロ支援国家再指定をちらつかせる米大統領

FBIは「(SPEへのハッキングの)行動の責任は北朝鮮政府にあると結論づける十分な情報がそろった」としている。また、2014年12月21日にオバマ大統領もこのハッカー事件について言及、「テロ支援国家の再指定を検討する」と発言した。北朝鮮へのテロ支援国家指定は2008年11月に解除されたが、再指定となれば武器輸出や対外援助の中断、対北朝鮮貿易の停止が再開されることになる。

北朝鮮は現在でも、この事件への関与は否定し続けている。だが、事件に関与したと名乗り出た「平和の守護者」という組織には、「SPEへのハッキングは北朝鮮の反米共助を支持する正義に沿った行動」(北朝鮮・国防委員会報道官声明)と評価している。

なぜ北朝鮮が強く反発するのか。一つのキーワードがある。それは、「最高尊厳」を冒涜された、という点だ。最高尊厳とは、もちろん最高指導者の金正恩第1書記、ひいては故・金正日総書記、故・金日成主席という意味だ。

最高尊厳という言葉自体は、特に金第1書記政権が本格化した2012年以降、しばしば出てくるようになった言葉だ。今回の映画のように、自分たちの最高指導者が暗殺される内容、しかもコメディとなれば、「最高尊厳の冒涜」と北朝鮮は受け取るようになった。最高尊厳に対する冒涜は絶対にあってはならず、それを冒そうとする者には必ず対抗しなければならない、という論理だ。

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