「IT教育」が有益である、これだけの理由 今や「できることをやる」の時代ではない

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教師の重要性は変わらず、役割が変わっていく

――学校教育のIT化については、日本でも賛否両論ありますね。

職場はパソコンやネットなくしては仕事が成立せず、ほぼすべての産業界、各個人の暮らしがデジタル化していると思います。家庭のテレビもデジタル化し、子どもたちも高校生の9割が携帯電話を持っているといいます。それなのに、学校だけがデジタル化されていないというのは、むしろ不思議だと感じます。

そもそも、昔は学校が最先端の場所でした。学校にいちばん初めにテレビが入り、学校にしかないオルガン、学校にしかない顕微鏡。学校に行くと最先端のものに触れられてワクワクできたのです。学校はこれからも最先端のものがあって、ワクワクする場所であるべきだと思っています。

そしてまた、東日本大震災の際に、被災地では多くの学校が、その耐震性と収容性から避難所として活躍しました。テレビや新聞などに先んじて、手書きの壁新聞や安否確認情報など、情報入手・連絡の場として活躍しました。であれば、学校は、いちばん強く、安全で、つねに最先端かつ大量の情報が集まる町いちばんの情報基地であってほしいとも思います。

――これからの教育の現場は、すべてITに取って代わられるのでしょうか?

ITはツールですから、すべてがITになるわけではありません。子どもにとっては、鉛筆があって、紙があって、粘土があって、同じようにパソコンやタブレット、スマートフォンがあります。あくまでも選択肢のひとつとして存在しています。

――学校の先生方の役割は変化しますか?

反転授業という学びも出てきています。先生が一方的に知識を提供するという、これまで行われてきたような授業は、事前に家で動画で見てきてもらい、学校の教室では、より発展的な授業をするというものです。授業中はみんながその場にいるからできること、議論をし、理解をより深めたり、ワークショップ的な協働学習をしたり。その中で必要になる先生の役割はファシリテーションだと思います。今後、先生にしかできない役割が、もっと大きくなると思います。

――今の時代を生きる子どもたちに伝えたいことは?

「答えはひとつではない」ということです。

あるとき、子どもがクリスマスツリーを青く塗っていたら、その子のお母さんが近づいてきて「クリスマスツリーは緑でしょ」と助言したことがありました。すると、その子は描きかけのクリスマスツリーの絵を破って捨ててしまったのです。「どうして破っちゃったの?」と聞くと「上手に描けなかったから」と答えたのです。

お母さんにとって正解である絵は、これまでの社会常識に照らして「上手な絵」であり、お母さんが大好きなその子にとっては、お母さんが上手といった絵が正解だったのです。でも、それでいいのでしょうか。私たちの常識と、子どもたちの創造性は、両立するのでしょうか。私は考え込んでしまいました。

子どもたちは、これまでに誰も経験をしたことがないほど目まぐるしく変化する世界を生きています。知識はすぐに陳腐化し、今日の常識は10年後の非常識かもしれない。学校で学んだ知識だけでは対応できず、誰も答えを知らない。そんな世界です。

子どもたちに変化に柔軟に対応する力を求めるのであれば、私たち大人も変化を受け入れ、正解がない課題に立ち向かわなくてはいけないのではないかと思います。

 

小宮山 利恵子 リクルート次世代教育研究院 院長

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こみやま りえこ / Rieko Komiyama

1977年東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。株式会社ベネッセコーポレーション等を経て、「受験サプリ」「勉強サプリ」等を展開する株式会社リクルートマーケティングパートナーズに入社。

財団法人International Women's Club JapanにてSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育推進委員長を務める。全国の学校等で情報モラル啓発講演を実施した経験がある他、IT教育を中心に国内外問わず幅広く取材活動を行っている。Wall Street Journal主催のIT教育に関するシンポジウム等にも登壇。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。東洋経済オンラインにてIT教育の連載を持つ(2014年11月~)

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