トヨタ下請け企業、「絶品シェーカー」に挑む 金型づくりで培った独自の技術を活用

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ツルツルに研磨し過ぎると、逆に味わいがなくなるらしい。そこで0.1ミクロン単位の「デコボコ」を残すようにした。磨く方向も、容器の高さに沿って縦方向にすると液体の流れが加速する。これまでにない「ラグビーボールのような」球体のフォルムも工夫。誰が飲んでも「変わった」と感じられるまでカイゼンを繰り返した。

試作品は20-30種類に及び、約1年を掛けて納得のいくものが完成。カクテルシェーカーと、同時に開発したミキシングティンの2種類のラインアップで、2013年11月に満を持して「BIRDY.」ブランドを立ち上げた。 

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「BIRDY.」のカクテルシェーカー(左)とミキシングティン。パッケージの人物は有名バーテンダーのエリック・ロレンツ

クールなイメージの公式サイトを立ち上げ、Facebookページには毎日のように投稿。ウェブデザインを学んだ横山さんの本領発揮だ。酒やバーテンダーのイベントなどにも小まめに参加。東京・銀座、大阪・天神橋から金沢・片町、札幌・すすきの…と全国に採用店が広がり、「バーディーってのがすごいらしい」と業界に衝撃が伝わった。上海や台湾、シンガポールなどからも大量に受注が来る。

当初は、会社の出自を積極的にアピールはしなかった。「田舎の中小企業だし、『クルマとお酒』は相性が悪い。隠した方がいいと思った」と横山さんは苦笑する。

しかし、ドイツまで行って参加したバー業界の見本市で、実は日本の自動車部品メーカーだと説明すると、相手の見る目がまったく変わった。今では自動車部品メーカーであることを前面に出している。その意外性が「ジャパン・ブランド」採択につながったことは間違いない。

いずれはキッチン用品にも

もちろん、車に比べれば極めてニッチな分野だ。1個8300円のカクテルシェーカーの販売数量はまだ年間2400個ほど。年商50億円の横山興業としてはほんのささいなビジネスにすぎない。

それでもバー用品をきっかけに、いずれ一般向けのキッチン用品なども手掛け、主力事業の一つに育てるつもりだという。

顧客と直接向かい合う、いわゆる「B to C」ビジネスも新しい挑戦だ。「酒の文化はその国によって違う。相手に合わせて交流しながら受け入れてもらわなければ」。やはりこれは、とても道楽では済まなさそうだ。

(撮影:川柳まさ裕)

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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