邸宅美術館で「門外不出の名画」を楽しもう 一押しはフィラデルフィアのバーンズ財団

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──この本には「退廃的な貴族邸宅にコンセプチュアル・アート そのミスマッチが美しく、痛快」と紹介されています。

ここはまず建物がいい。バロック風の貴族の館で、豪華なシャンデリアやルイ15世スタイルの金箔張りの家具がある中に、絵だか何だか普通にはよくわからないコンセプチュアルなミニマルアートが存在し、実によく合っている。米国戦後美術の世界最大級のコレクターだったジュゼッペ・パンザが集めた作品群だ。

──日本ではあまり知られていないスイスの美術都市ヴィンタートゥールの紹介もあります。

オスカー・ラインハルト・コレクションがある。建物はいかにもスイス風の大きな山小屋といった風情だ。ここではブリューゲルやルーカス・クラナッハといった古典絵画が私の好みだが、このコレクションの一番の見せ場はフランス絵画だ。アングルからゴッホへの19世紀から20世紀にかけての流れ、つまり印象派が出てきてポスト印象派になる、一連の流れが無理なくわかるコレクションがいい。

──ご自身の美術への関心も月日の経つうちに変化していますね。

「邸宅美術館の誘惑」 集英社(1900円+税/160ページ)

最初に出した本が『盗まれたフェルメール』。それ以前は美術ジャーナリストを職業にしていたのではない。『盗まれたフェルメール』もノンフィクションというスタンスで、たまたま盗まれた物が美術品だった。書くのにフェルメールを調べなければならないし、ほかにも盗難事件があったので調べていくうちに、美術分野がもっぱらになった。

──日本人は本当にフェルメール好きです。

西洋の絵画は宗教的なテーマが多い。たとえきれいでも、日本人にとってはそれ以上に心に響いてくるものはない。オランダの風俗画は宗教画ではなく、普通に理解できるような風景と人物表現になっている。そういう意味で親しみがあるうえに、描かれた光の中の女性に心が安らぎ、神々しくさえ感じられる。

──フェルメールの絵はよく日本に来ます。

毎年日本に来ているというので、数えてみたら、専門家の間で真贋が論議のあるものを含めて37枚のうち20枚ぐらい来ている。だが、たとえばフリック・コレクションにある3枚は貸し出されない。しかも作品だけを持ってきて公的な美術館空間に並べても、コレクターの声は聞こえてこない。遠くて不便でも、邸宅美術館まで出かけて行き、コレクターの気配の残る空間で見る。そうした時に得られる体験は、アート作品だけを鑑賞するよりもずっと大きい、と私は信じている。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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