国債累増、問題の本質をごまかしてはならない 返済時に誰がどれだけ負担するのかがが問題

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対外債務による危機では、どれだけの債務削減を行うかで常に対立が生じる。しかし、日本の国内であれば簡単に負担の分担について話がつく、と考えるのは楽観的過ぎる。夫婦間の借金であればどんなに増えても問題は起きないというものでもない。妻が夫に貸したお金が返ってくると思っていたら、問題が起きる。

例えば国債を売却して年金の支払いに充てようとした際に、常に国債の新たな買い手がいるとは限らない。国内問題なのだから、国が強制力を発揮して増税するなり、年金額を削減するなりすればよいはずだが、現実には必ず、誰がどれだけの負担するのかをめぐって政治的に大もめになる。今は、誰がどれだけ負担するかという政治的に最も困難な問題を、将来世代に押し付けているのだ。

海外から借りていないから、問題の発覚が遅れる

海外からの借り入れで財政赤字を賄っていたギリシャは破綻したが、もしも、通貨統合が行われずに、ギリシャが昔の通貨であるドラクマを使い続けていたら、もっと早くに海外から資金を借り入れられなくなったはずだ。一方で、ギリシャ経済の傷も、もっと軽くて済んだ可能性が大きい。お金の貸し手であるドイツなどと共通の通貨であるユーロを使っていたために、問題の発覚が遅れて、傷が大きくなったともいえるだろう。

海外から資金を借りていない日本では簡単には財政の行き詰りが露呈しないが、これは良いことだけではない。現在は日銀が国債を大量に購入することで、需給の悪化を起こさせないので、さらに問題が表面化しにくい。問題が誰の目にも明らかになったときには、ギリシャよりももっと傷が深くなっているという危険性がある。

これだけ債務が増えても問題が起きていないということは、問題が発生しないという根拠にはならない。自然災害でも大事故でも実際に被害が発生するまでは、ほとんどの人が大した問題ではないと思って対応を怠っていたからこそ、大きな被害が出る。日本の国債が国内で消化されてきたということが裏目に出て、多くの人の目に問題が明らかになったときには、すでに病状が悪化してしまっていて手の施しようがない――こういうことにならなければよいのだが。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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